バイオ燃料が森林を破壊する

いまのところバイオ燃料の主な原料はとうもろこしや大豆で、これにブラジルなど一部の国ではサトウキビが用いられたりしている。温暖化ガスを抑制するためにこうした燃料を用いること自体は結構なことのように響くが、問題はそれらの原料が人間様の貴重な食料源でもあることだ。おかげでとうもろこしや大豆の価格は高騰し、世界中に影響を与え始めている。中南米などとうもろこしを主食にしている国では、深刻な食糧問題まで引き起こしているほどだ。

バイオ燃料のための原料を増産しようとして、インドネシアや南米では森林を切り開く動きが広がっている。そのためこの数年の間に、膨大な面積の森林が失われた。森林はいうまでもなく、空気中の二酸化炭素を吸収し、地球の気候を安定化させるために多大な役目を果たしている。その森林が破壊されてなくなるのであるから、その分だけ温暖化も進むことになる。一方で二酸化炭素の排出量を減らす努力をしても、その裏面で温暖化を促進しているのでは何にもならない。

とくに深刻な影響が懸念されているのはインドネシアの森林破壊だ。スラウェシュ島はかつては鬱蒼とした森林が島のほぼ全域を覆っていたが、最近急速に破壊が進み、このままでは島は丸裸になってしまうのではないかと心配される。この地域でとれるアブラヤシがバイオ燃料にそのまま転用できることから、森林を破壊し、アブラヤシを植える動きが強まっているからだ。

森林破壊を批判されているインドネシアの政府当局は、環境より開発のほうが優先課題だといって、森林破壊の動きにブレーキをかけるつもりはない。

スラウェシュの森林破壊がまさに破壊的である所以は、ただに森林がうしなわれることのみによらない。この地域の地層は分厚い泥炭層でできていて、膨大な量の二酸化炭素が封じ込められている。森林が失われることによって、この泥炭層が露出し、そこから大量の二酸化炭素が空気中に放出されるのである。それによる温暖化効果は、アブラヤシによって期待できる低減効果の何倍にもなる。

温暖化対策として始まったバイオ燃料の推進が、かえって温暖化を加速させているのである。

森林破壊は、地球環境に対してとりかえしのつかぬ負の効果をもたらしているだけではない。それはまた、森林地帯に生息する多くの野生動物を絶滅の危機に追いやっている。今もっとも野生生物が危機的状況に瀕しているのはアフリカとインドネシアだといわれているが、すくなくともインドネシアでは、バイオ燃料が野生動物の命を追い詰めているのだといえる。

何故こうなってしまうのか。それは環境もビジネスになるからに他ならない。ビジネスは無論悪いことではなく、とくに地球規模の問題については世界中のビジネスを巻き込まなければ有効な効果など期待できない。だがビジネスは所詮ビジネスだ。目先の利害になることだけを考える。バイオ燃料を生産・販売して利益が上がればよい。その結果の負の効果など知ったことではない。

地球環境はいまや地球全体の共通課題であるのに、国によってスタンスが異なっているのが現状だ。それは国によって利害が異なっているからだろう。こうした事態にビジネスが割り込んでくると、事態はますますこんがらがってくる。そこで、温暖化防止のための対策が、かえって温暖化を促進することになったり、野生動物や貧しい人間たちを飢餓に追いやることとなっているのである。

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