盛唐の詩人孟浩然は、自然派詩人として王維と並び称され、時に王孟と呼ばれる。王維よりは10歳年長であるが、両者は親しく交友した。その死に際して、王維は深い悲しみを表した詩を作っている。
孟浩然の詩には田園の自然をのびのびと歌ったものが多く、「春眠暁を覚えず」はとりわけ有名である。
孟浩然も王維と同じく、陶淵明に深く傾倒した。陶淵明を直接歌った詩は存在しないようだが、その精神を盛り込んだものは残している。「過故人荘」と題する五言律詩がそれである。
過故人荘
故人具鶏黍 故人 鶏黍を具へ
邀我至田家 我を邀へて田家に至らしむ
緑樹村辺合 緑樹 村辺に合し
青山郭外斜 青山 郭外に斜めなり
開軒面場圃 軒を開いて場圃に面し
把酒話桑麻 酒を把って桑麻を話す
待到重陽日 到るを待つ 重陽の日
還来就菊花 還た来って菊花に就かん
故人が鶏と黍の料理を用意して、私を家に招いてくれた、村はずれには緑の木々が繁り、青々とした山が郊外に連なっている、
窓を開いて畑を望み、酒を酌み交わして桑や麻のことを話す、9月9日の重陽の節句の日には、再び訪れて菊の花を愛でたいものだ
詩を貫いているのは、陶淵明の詩「園田の居に帰る」と同じ世界である。桑麻を話すところなどは、「相ひ見て雜言無く 但だ道ふ桑麻長ずと」の部分を髣髴せしめる。菊のイメージも陶淵明の好んだもの。陶淵明は菊を浮かべる酒がないために、空しく手に持つこともあったが、ここでは重陽の日を待ちわびる気持ちが歌いこまれている。
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