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韓国の政権交代:李明博勝利の意味


先日行われた韓国の大統領選挙では、大方の予想通り、野党ハンナラ党の李明博(イ・ミョンバク)が圧勝した。金大中(キム・デジュン)、ノ・ムヒョンと二代続いた民主党政権が終わり、10年ぶりに政権交代が実現するわけだ。

今回の選挙の争点は何よりも経済問題だった。韓国経済は今世紀に入って低迷が続き、今では大学を卒業しても就職できないほどの深刻な雇用不安に見舞われており、若者や労組を中心に、政治に対する不満が高まっていた。

この不況は日本の不況に似て、グローバリゼーションによる経済のファンダメンタルの変化に大きな要因があると思われるが、国民はその責任をあげて現政権の政策の失敗に帰した。イ・ミョンバクはそうした国民のムードに乗り、現政権を手厳しく批判するとともに、経済の建て直しを公約の柱に据えた。それが見事に功を奏したわけである。

韓国の大統領選挙は伝統的に、南北関係などの政治的イッシューや政治家個人の倫理といった精神的話題が表面に立つことが多く、経済問題が争点になることはほとんどなかった。それが今回は経済問題一辺倒といっていいほど、選挙の話題をさらったのである。国民がいかに経済の低迷と暮らしの不安に不平を抱いているか、その深刻さが浮き彫りにされた形である。

候補者としてのイ・ミョンバクには、実業家として成功を収めた経歴があり、その経験を国政運営に生かして経済を立て直すのだというわかりやすい主張があった。だが一方で不正資金や脱税疑惑など、ダーティなイメージがつきまとってもいた。今までならダーティなイメージを払拭できない候補者はとても勝利することはできなかっただろうが、今回は当選を妨げるダメージにはならなかった。韓国国民は少しくらいダーティでも、確実に経済を立て直してくれそうな候補を選んだのである。

だが、イ・ミョンバクの主張をよく聞いてみると、それが果たして国民が望むような経済の建て直しにつながるのか、甚だ心もとないといわねばならない。

イ・ミョンバクの主張の要点は、海外からの資本を呼び込んで企業活動を活発化させ、経済全体の水準を底上げした上で、その余沢を国民にいきわたらせようというものだ。つまりサプライサイド・エコノミックスの韓国版である。

しかしよく考えてみると、現政権が行ってきたのも、このサプライサイド・エコノミックスの変形といえるものだったのである。ノ・ムヒョン自体は経済政策にはあまり熱心ではなかったせいで、政権の経済政策の特徴はシャープな形では伝わっていないが、グローバライゼーションの浸透の中で、企業活動にメリットを与えようとする点では、アメリカや日本の行き方と余り大きなちがいはなかったのである。

今回の不況がサプライサイド・エコノミックスと直接結びつくとはいえないが、この政策が格差の拡大をもたらしやすいことは、日本の経験から明らかだ。企業活動を活発化させ、企業の業績を伸ばしたとしても、その果実は国民の間に広く伝わらず、むしろ経営者と資本家を潤すだけ、というのがここ数年好況といわれた日本経済の実態ではなかっただろうか。

韓国国民は長引く不況と格差の拡大に怒り、政治の流れを変えるべき選択をしたが、イ・ミョンバクが公約どおりの政治を行ったら、その先に待っているのは、明るい未来とは限らないだろう。


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