台頭する中国:脆弱なスーパーパワー

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今年は北京オリンピックが開催される年だ。中国はその成功に国の威信をかけて、最終準備に取り組んでいるそうだ。かつて東京やソウルがそうであったように、オリンピックを開催することは、国際社会の中で一流国家の仲間入りすることを意味する。大方の高齢の中国人にとっては、自分たちが若い頃に、祖国が世界の一流国家入りすることなど考えられもしなかっただろう。

中国人が文化大革命の悪夢から目覚めて、国の近代化に取り組み始めたのはつい30年ほど前のことに過ぎない。だがこの間の中国経済の成長ぶりにはすさまじいものがあった。この間の先進諸国における平均所得の伸びがせいぜい50パーセントくらいであるのに、中国ではなんと10,000倍にもなったのだ。他の先進諸国が2世紀かけて達成した産業化の過程を、中国はわずか30年で達成してしまったのである。

中国は、経済規模からいえば、いまやアメリカと肩を並べる大国である。2007年における経済活動の規模では、中国はアメリカを上回る生産量を記録した。アメリカが経済活動世界一の地位を他国に譲ったのは、1930年代以降初めてのことである。消費の面でも中国は世界最大の市場である。こうした経済活動の増大に伴い、温暖化ガスの排出など、負の面においても、中国は世界最大の寄与者となった。

経済活動の拡大と平行して、国際社会における中国の政治的な影響力も飛躍的に高まった。軍事力からいっても、中国は世界の超大国である。こうして今や国際的な問題は中国を抜きにしては語れない時代になった。

地球上に住む人間の5人に1人は中国人であるから、その膨大な人的資源を背景にして、中国がいずれ世界最大級の経済的・政治的パワーを持つだろうことはかねてから予想されていた。その予想は今や実現したといってよい。中国はアメリカと肩を並べるスーパーパワーに成長したのだ。

だが当の中国人にとっては、自分たちがスーパーパワーだとは、すなおには受け取れぬらしい。

中国はあまりにも急速に成長したこともあって、拡大した富が国民の間に広く共有されず、一部のものに集中した。このような富の偏在という事態を招いたのは、他の先進国の過去の例と同様だが、中国の場合には極端だったといってよい。多くの中国人にとって、中国は一部の金持ちと大多数の貧乏人からなる社会であり、自分らにとってはまだ開発途上の貧しい国だという実感が生きている。

国の図体ばかり大きくなっても、国民の一人ひとりが豊かさの実感をもてないでは、スーパーパワーだといっても、張子の虎のようなものである。

中国はまた政治システム上の問題も抱えている。中国は共産党の一党独裁が生きている地球上でも珍しい国の一つである。民主化が進んだとはいえ、共産党支配が許容できる範囲内でしかない。国民は経済活動においては最大限の自由を享受できるようになったが、政治的には真に自由であるとはいえない状況が続いている。いまだにコネクションがものをいい、権力エリートが富の獲得に有利なシステムが生きている。

その共産党の支配も様々な面で破綻をきたしつつあるようだ。今日ではかつてのように、中央の号令が全国津々浦々まで浸透するといったことはなくなってきているようなのだ。国としての一体性が薄れつつあるといえる。

成長の著しい分野で顕著に見られるように、政治的な課題よりも経済の拡大が優先され、全国的な利害よりも、地方的な利害が優先される。各省や大都市に対するコントロールはうまく働かず、それぞれが自分たちの利害を勝手に追求している。その結果企業あって政府なし、各省あって国家なしというべき事態が生じているようなのだ。

こんなところからも、中国の人々は日々の生活の豊かさを通じて中国人としての満足感を持つようには至らず、まして自分たちが真に世界のスーパーパワーになったなどという実感も得られないのだろう。

だが中国という国が、たとえ図体ばかりでも、アメリカと肩を並べるに至ったことは厳然たる事実だ。その中国がアメリカは無論、他国と肩を並べて共存していくためには、乗り越えなければならぬ問題が多い。スーパーパワーとしては、中国はまだ脆弱さを抱えたままだといわねばならない。

(参考)The Rise of a fierce yet fragile Superpower by Fareed Zakaria : Newsweek


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