兄妹であることを知らずに結婚したカップル

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イギリスではいま、双子の兄妹であることを知らずに結婚したカップルの悲劇が人々の同情を誘っているそうだ。AFPの伝えるところによると、このカップルの話は、人間の生殖と人工授精を議論する国会の場において、オルトン上院議員によって始めて紹介された。

オルトン氏自身も、ある裁判官から聞いた話として紹介しているのであるが、それによれば、生まれたばかりの双子の兄妹が生後すぐ別々の人に養子として引き取られ、成人した後に互いが兄妹であることを知らないまま、ひきつけあい、ついに結婚した。イギリスの家族法では近親間の結婚は認められていない。そこでこの裁判官は悩んだ末に、この結婚が法律上無効であったと判決したという。

オルトン氏がこの話を引き合いに出したのは、養子縁組された子や人工授精で生まれた子に、生物学上の両親が知らされていない現状に対して警鐘を鳴らすためだ。特に、人工授精のケースに関しては、精子の提供者、つまり生物学上の父親について子どもに明かされることは殆どない。そうした制度の不備が今回の不幸な事態につながったのだと、オルトン氏は力説したのである。

オルトン氏の主張には別の背景もある。異性の同胞とくに双子は、血がつながっていると知らされていなければ、互いに強くひきつけあう傾向がある。それを抑制するのは、正しい知識だけだ。だから彼らには自分の出生についての正しい知識を、権利として保障する必要がある。

オルトン氏がいうとおり、近親婚が抑制されているのは、社会的な抑圧が個人の中に内面化されているからだ。その抑圧が働かないと、人間は自分と生物学的に似た異性に強烈に惹かれるように、できている。

日本には「似たもの夫婦」という言葉がある。男は母親に似た女性に引かれて結婚するが、多くの場合男は母親の面影を受け継いでいるものだから、母親を介して二人の特徴が似通うようになることを物語っているものだ。女の場合には父親の面影を介して、自分と配偶者とが似通うということになる。これは近親婚に対する抑圧感情を、別のところで解消しようとする、代償的な行為なのかもしれない。

養子縁組も人工授精もイギリスほど進んでいない日本では、オルトン氏が憂えているような事態は目下表面化していないが、欧米では身近な問題になりつつあるらしい。

オルトン氏は家族法を改正して、すべての子どもたちに対して、生物学上の両親を知る権利が与えられるようにと主張している。


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