赤毛の女乞食に À une Mendiante rousse:ボードレール

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ボードレール詩集「悪の華」 Les Fleurs du Mal から「赤毛の女乞食に」 À une Mendiante rousse を読む。(壺齋散人訳)


赤毛の女乞食に

  青白い赤毛の娘よ
  お前の服には穴があき
  貧しさとともに
  美しさが覗いている

  病める詩人たる余にとって
  若く弱々しいお前は
  そばかすだらけの顔に
  やさしさを感じさせるのだ

  お前の身のこなしは
  女王たちよりエレガントだ
  豪華なサテンの履も
  粗末なお前の履に若かぬ

  短いぼろスカートのかわりに
  優雅なイブニングドレスを着せ
  そのかかとの上を
  なびかせてみたいものだ

  穴のあいたストッキングのかわりに
  ガータを着け それに金の短剣を挿し
  男たちの目の楽しみに
  光らせてみたいものだ

  我らが罪滅ぼしに
  そのゆるい結び紐をといて
  瞳のように輝く
  お前の乳房を露出せしめよ

  裸になるからには
  木戸銭の請求を忘れるな
  ただ悪意あるものの手は
  きっぱりと拒絶せよ

  極上の真珠
  ベローの恋歌が
  お前に夢中になったものから
  次々に捧げられるだろう

  俄か詩人気取りたちが
  お前に愛の言葉を贈り
  階段の下のほうから
  お前の脚を伺うだろう

  恋情に狂った男たちや
  ロンサール気取りの伊達者たちが
  お前の帰り道をつけねらい
  誘惑しようと企むだろう

  かくてお前はベッドの中で
  幾たびもの接吻を受け
  愛の行為の代償として
  ヴァロアの御殿を得るかも知れぬ

  だが目の前にいる現実のお前は
  物乞いを続けながら
  そこらの店に散乱する
  ガラクタが欲しいと思っているのだ

  お前が肩越しに見つめているのは
  まがいものの宝石に過ぎぬ
  だが許せ いまの余には
  それさえ買ってやることができぬ

  さあ行け 飾りなどなくても
  香水も 真珠も ダイヤもいらぬ
  お前のか細い裸体に増して
  美しいものはないのだ

いくら若い女だからといって、乞食に身をやつしたものに心をそそられる男はいないだろう。だがボードレールはこの詩の中で、赤毛の女乞食に美の残影のようなものを認め、それがなお、男心をそそのかす美しさを持っていると歌っている。

女であることの抽象的な美はそれだけで男の心をそそのかすものだ。女というものは、その女としての存在のあり方を通じて、それだけで、男の心を動かすことがある。女でさえあれば別に顔などなくともよい。まして貧しい身なりをしていることなど問題にはならない。女であることは、それに伴う独特の特権を持っているのだ。そうボードレールはいっているようである。

この詩は、「悪の華」の諸篇の中でももっとも古いものだとされている。乞食女のイメージには、ドロアの描いたレズビアンの女の表情が影を投げているといわれている。


À une Mendiante rousse — Charles Baudelaire

  Blanche fille aux cheveux roux,
  Dont la robe par ses trous
  Laisse voir la pauvreté
  Et la beauté,

  Pour moi, poète chétif,
  Ton jeune corps maladif,
  Plein de taches de rousseur,
  À sa douceur.

  Tu portes plus galamment
  Qu'une reine de roman
  Ses cothurnes de velours
  Tes sabots lourds.

  Au lieu d'un haillon trop court,
  Qu'un superbe habit de cour
  Traîne à plis bruyants et longs
  Sur tes talons;

  En place de bas troués
  Que pour les yeux des roués
  Sur ta jambe un poignard d'or
  Reluise encor;

  Que des noeuds mal attachés
  Dévoilent pour nos péchés
  Tes deux beaux seins, radieux
  Comme des yeux;

  Que pour te déshabiller
  Tes bras se fassent prier
  Et chassent à coups mutins
  Les doigts lutins,

  Perles de la plus belle eau,
  Sonnets de maître Belleau
  Par tes galants mis aux fers
  Sans cesse offerts,

  Valetaille de rimeurs
  Te dédiant leurs primeurs
  Et contemplant ton soulier
  Sous l'escalier,

  Maint page épris du hasard,
  Maint seigneur et maint Ronsard
  Epieraient pour le déduit
  Ton frais réduit!

  Tu compterais dans tes lits
  Plus de baisers que de lis
  Et rangerais sous tes lois
  Plus d'un Valois!

  - Cependant tu vas gueusant
  Quelque vieux débris gisant
  Au seuil de quelque Véfour
  De carrefour;

  Tu vas lorgnant en dessous
  Des bijoux de vingt-neuf sous
  Dont je ne puis, oh! Pardon!
  Te faire don.

  Va donc, sans autre ornement,
  Parfum, perles, diamant,
  Que ta maigre nudité,
  Ô ma beauté!


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