妖精の歌:解き放たれたプロメテウス Prometheus Unbound

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パーシー・B・シェリーの詩劇「解き放たれたプロメテウス」 Prometheus Unbound は、有名なギリシャ神話に題材をとった作品である。詩劇という表現をとっているように、叙事詩とドラマの中間に位置する。ゼウスによって課せられたプロメテウスの試練とそれからの解放を描いたものだ。全体は4部からなる長大な作品であるが、ところどころに差し挟まれた美しい絶唱には、独立して鑑賞に堪える部分が多い。

ここでは、第一幕から「妖精の歌」を取り出してみよう。岩に縛り付けられ試練に耐えているプロメテウスを哀れんだ大地の女神は、イオネーとパンテアの姉妹をプロメテウスの足元につけるが、更に妖精たちを派遣して、彼の苦しみを和らげようとする。妖精たちはそれぞれに不思議な啓示を受けて、プロメテウスのもとへと駆けつけるのである。


妖精の歌

   第一の妖精

  戦いのラッパが鳴り響いたので
  わたしは急いでやってきた
  垂れ込めた闇の中を
  金切り声の懺悔のような
  引き裂かれた旗のような
  様々に入り交じったうなり声が
  わたしの近くで聞こえる
  自由、希望、死、勝利と!
  でもそれらはすぐに消え去り
  一つの音が聞こえてきた
  下の方から 周りから 上の方から
  それは愛の魂の声
  それは希望 それは予言
  きっとあなたが発する言葉

   第二の妖精

  大きな虹が海上にかかり
  海はその下で揺らめいていた
  勝ち誇った嵐は征服者のような
  傲慢な表情をして去っていった
  後には人質になった雲が残され
  形もなくたゆたうその合間から
  稲光が光ったと思うや
  荒々しい雷鳴がとどろきわたった
  船団は籾殻のように吹き飛ばされ
  地獄のような白い海に
  ちりぢりになって横たわった
  わたしは雷に引き裂かれた船に乗ると
  大急ぎでやってきたのだ
  たしかため息が聞こえたけれど
  それは断末魔のうめき声だったか

   第三の妖精

  わたしは聖者のベッドサイドに座っていた
  ランプが赤々と燃え
  そばには読みかけの本が置いてあった
  すると聖者の枕元に
  夢が炎の翼に乗ってやってきた
  はるか昔に
  慈愛や 雄弁や 苦悩をたきつけた
  あの夢と同じものだ
  下の世界は
  炎の作った影に覆われている
  わたしはその様子が気になって
  稲妻のような速さでやって来たのだ
  夜明け前には戻らねばならない
  聖者が目覚めたら悲しむでしょうから

   第四の妖精

  わたしは詩人の口元でまどろんでいました
  恋の達人が恋人としあうように
  寝息に揺られて夢みながら
  詩人は形あるものには振り向かず
  霞を糧として生きている
  そして形なきものを形あるものへと変える
  夜明けから黄昏まで
  湖に反射した太陽に眺め入り
  アイビーの繁みの陰に蜜蜂を見て過ごすのです
  でもそんなものからでも
  詩人は生き生きとした像を作り出す
  それは決して滅びることのない子どもたちです
  そんな子どもたちの一人に起こされ
  わたしはあなたを助けにやってきました

シェリーはこの詩劇を、アイスキュロスの悲劇「縛められたプロメテウス」 Prometheus Bound の続編として構想した。

プロメテウスは火を盗んで人間たちに与えたことをゼウスにとがめられ、コーカサスの岩場に鎖でつながれてしまった。そしてそのプロメテウスの肝臓をカラスが食いに来る。食われた肝臓は翌日にはよみがえり、それをカラスがまた食いに来る。こうしてプロメテウスは、カラスに腹を食い破られる苦痛を永遠に受け続ける運命にさらされるのだ。

ここに描かれたプロメテウスの苦悩と解放は、抑圧された同時代人たちの苦悩と、革命による解放をイメージしている。革命詩人といわれたシェリーの代表作というに相応しい作品である。


Prometheus Unbound : Percy Bysshe Shelley

   First Spirit.

  On a battle-trumpet's blast
  I fled hither, fast, fast, fast,
  'Mid the darkness upward cast.
  From the dust of creeds outworn,
  From the tyrant's banner torn,
  Gathering 'round me, onward borne,
  There was mingled many a cry —
  Freedom! Hope! Death! Victory!
  Till they faded through the sky;
  And one sound, above, around,
  One sound beneath, around, above,
  Was moving; 'twas the soul of Love;
  'Twas the hope, the prophecy,
  Which begins and ends in thee.

   Second Spirit.

  A rainbow's arch stood on the sea,
  Which rocked beneath, immovably;
  And the triumphant storm did flee,
  Like a conqueror, swift and proud,
  Between, with many a captive cloud,
  A shapeless, dark and rapid crowd,
  Each by lightning riven in half:
  I heard the thunder hoarsely laugh:
  Mighty fleets were strewn like chaff
  And spread beneath a hell of death
  O'er the white waters. I alit
  On a great ship lightning-split,
  And speeded hither on the sigh
  Of one who gave an enemy
  His plank, then plunged aside to die.

   Third Spirit.

  I sate beside a sage's bed,
  And the lamp was burning red
  Near the book where he had fed,
  When a Dream with plumes of flame,
  To his pillow hovering came,
  And I knew it was the same
  Which had kindled long ago
  Pity, eloquence, and woe;
  And the world awhile below
  Wore the shade, its lustre made.
  It has borne me here as fleet
  As Desire's lightning feet:
  I must ride it back ere morrow,
  Or the sage will wake in sorrow.

   Fourth Spirit.

  On a poet's lips I slept
  Dreaming like a love-adept
  In the sound his breathing kept;
  Nor seeks nor finds he mortal blisses,
  But feeds on the aëreal kisses
  Of shapes that haunt thought's wildernesses.
  He will watch from dawn to gloom
  The lake-reflected sun illume
  The yellow bees in the ivy-bloom,
  Nor heed nor see, what things they be;
  But from these create he can
  Forms more real than living man,
  Nurslings of immortality!
  One of these awakened me,
  And I sped to succour thee.


関連リンク: 英詩のリズムパーシー・B・シェリー

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