いつまでも恋人同士でいられるために:恋愛の条件反射

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どんなに激しい恋をして結婚したカップルも、その激情をいつまでも保ち続けることはむつかしい。ハネムーンの時期が過ぎて子どもが生まれ、生活のパターンが安定してくるにつれて、結婚当初の激情的な愛に結ばれた関係は、次第に落ち着いたものへと変わっていく。そして10年、15年とたつうちに、結婚生活はすっかりマンネリ化し、互いの存在が空気のようなものに成り果てる。配偶者に接しても、恋人時代の頃のように、胸がときめくことはない。

それゆえ西洋の伝説に出てくるドン・ファンは、女性との間で沸き立つあの甘い情熱のとりこになり、それを自分の生きる力にしたいと願うあまり、一人の女性との愛が冷えるのを感ずるたびに、新しい女性を求め続けたのだった。浮気が好きな人々も、多かれ少なかれ、ドン・ファンと共通したところをもっているのであろう。

ところが世の中には、結婚当初の激情とまではいかぬが、それに近い愛の感情を、いつまでも持ち続けることのできる人々人がいる。そういう人は、配偶者と接するごとに新鮮な愛の感情が起こり、仕事の都合でしばらく離れていなければならないときなど、激しく相手を求める気持ちが沸き起こるという。つまり万年ハネムーンの状態なのである。

そんな幸福な状態が何故維持できるのか。そのメカニズムを脳科学の分野から解明しようとする面白い研究がある。

アメリカの脳神経学者アロン博士は、人が恋愛感情を抱いているとき、その人の脳にどのような変化が現れるかを追跡してきた。その結果わかったことは、愛する人に接すると脳のある分野に反応が生じ、そこにドーパミンとノレピネフリンという物質があふれる。するとこれらの物質は脳を通じて人の心にも作用し、その人を甘い感情で包むようになる。

つまり愛する人を見るという行為と甘い感情が沸き起こることとの間で、刺激と反応との一種の条件反射のようなものが成立しているのである。ドーパミンやレノピネフリンはその過程に触媒のように介在する物質なのだ。

パブロフの犬が或る時梅干を食ってよだれが出た経験をもとに、その後は梅干を見ただけでよだれが出るようになったのと同じく、人は愛する人との接触が甘い思いに結びついた経験をもとに、その後はその人を見るだけで甘い思いになる。これは恋愛における条件反射である。人といえども、条件反射のメカニズムは犬と異なるところはないようなのだ。

人というものは甘い感情が好きであるから、一旦愛をめぐる刺激―反応の条件反射のパターンが成立すると、それを求めて更に愛する人を見ようとする。そうすれば条件反射の機制が働いて、幸福な気分になることを学習しているからだ。恋愛の激情といわれるものの、生理学的背景ということができる。

パブロフの犬の場合もそうであるが、条件反射は頻繁に繰り返すと反応が弱まる。人間の男女の場合にあっても、同様のプロセスが働く。それゆえ普通の人は、時間の経過に従って、強い恋愛感情から遠ざかっていく。

条件反射を長続きさせるためには、刺激と反応の回路を常に新鮮な状態にしておかねばならない。逆に言うと、その回路が常に新鮮であれば、条件反射も長続きするのだと考えられる。

アロン博士によれば、行動のパターンに変化が少ないカップルほど、恋愛感情が摩滅しがちだという。それに対して、新しいことが好きで、常に変わった経験を一緒にしているカップルは、互いに対して強い恋愛感情を抱き続ける度合いが強い。

新しい経験は脳に作用してドーパミンの分泌を促す。恋愛と同じような刺激―反応のプロセスが生じるのである。その経験が配偶者の存在と結びついていれば、配偶者に対しても刺激―反応の回路が形成しなおされ、その結果恋愛感情も長続きする、そう博士は推論する。

配偶者との間で、絶えず新鮮な経験を共有しよう。これがアロン博士の恋愛感情を長く持続させるためのアドバイスである。


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