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中国の一人っ子政策:先鋭化する矛盾


先日中国のテレビ番組の中で流された奇妙な光景が、中国人の間で波紋を呼んでいるそうだ。人気キャスターの某氏がオリンピック特集を報道している最中、その妻でやはり人気者のアナウンサーが突然画面に現れたと思うや、亭主からマイクを奪ってわめき始めたのというのだ。それも、亭主が浮気をして、その女に子どもを作らせたという内容だったので、画面を見ていた人々はみな唖然とした。おまけにその様子は早速「ユー・チューブ」にアップされ、ウェブ・ゴシップの種となった。

中国では、例の「一人っ子政策」が今でも生きている。これは1980年に、鄧小平が貧困撲滅計画の柱として導入したもので、誰でも子どもを作れるのは一人に限るというものだ。ところが最近、国の経済発展に伴って、金回りのよくなった連中の間では、公然、非公然をとわず、様々な方法を用いてこのルールを破るものが出てきた。今回のテレビキャスターの件も、夫婦の痴話げんかというよりむしろ、エリート・キャスターが金と地位にものをいわせて、一人っ子政策を踏みにじっているのではないかという点が、人々の関心の的となったのである。

この一人っ子政策は一般の中国人にとっては苛烈というべき政策だ。中国人は伝統的に、老後は子どもの世話になる。その子どもが1人しか作れないでは、老後は不安だらけになるのである。それでもこの政策が30年間も守られてきたのは、国の近代化という至上命題があったからだ。

施行当初は違反者への取締りが過酷を極め、産み月近くなっても堕胎させられたという類の話がよく聞かれたほどだった。人民の反発を受けて次第に例外を広げ、今日では比較的ゆるやかな運用がなされている。たとえば一人っ子同士が結婚したときには、両方の親の面倒を考慮して、二人生むことが許されたり、農村においては、一人目が女の子であった場合、農業の存続を考慮して、二人目を生むことが許される。また、離婚や養子縁組においても、例外が認められる。

反則者については、かつては上述のような堕胎の強制があったが、今はさすがにそこまではしない。その代りに高い罰金が科せられる。額は夫婦の合計年収の数年分といったものである。

これに対して、脱法的に複数の子どもを持つものが次第に増えてきている。たとえばカナダや香港のような、中国の国内法が通じないところで子どもを作るといったやり方である。離婚のケースを利用するものもある。これは妻に子どもができると法律上は離婚し、他の女と結婚する形をとる。無論前の妻子に対しては事実上養育を続けるのである。変則的なめかけ制度ともいうべきもので、最近では金持ちの間で流行っているらしい。

正々堂々と、罰金と引き換えにして複数の子どもを作るケースも増えている。

これらのケースを分析すると、要するに金さえあれば、法の網をくぐって子どもを複数作るのが比較的容易だということがみてとれる。金のない一般の中国人からすれば、深まりつつある格差の象徴的な現象なのである。

体制にとって憂慮すべきなのは、これが官僚の腐敗と深く結びついていることだ。司法当局によれば、昨年一年間に腐敗で摘発された官僚のうち、95パーセントは複数の子どもを作らせていたという。一方農村部では、一人っ子政策に違反したために厳しい経済制裁を課せられ、呻吟している民衆がある。このような対比は、人々の間に不公平感を醸成し、体制への怨嗟につながりかねない。

中国の国営テレビの人気キャスターは、エリート官僚でもある。その立場にあるものが、めかけ騒ぎを起こしたものだから、中国全体がゴシップ話に熱中する事態に発展した。恐らく中国人民が日ごろ抱いていた不満に火がついたのだと思われる。


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