ステファヌ・マラルメの詩「乾杯」Salut を読む。(壺齋散人訳)
この泡と 処女なる詩が
描かれているのは聖餐の杯
彼方ではシレーヌの一群が溺れ
みな身を逆さにしている
さあ船出だ 我が友たちよ
我はすでに船尾にあり
諸君は舳先に立って
雷光ひらめく冬の波を掻き分けて進め
我は心地よき酔いに促され
倒れるのを恐れることなく
高々と乾杯の杯を上げよう
孤独に 暗礁に 星に
何であれ我らの航海にとって
不安を知らせるすべてのものに
「乾杯」と題したこの詩は、1893年に催されたある宴会の席上、マラルメ自身によって読み上げられ、そのままの形で雑誌 La Plume に発表された。その宴会とは当該の雑誌社が催したものであったが、その場に主賓格で招かれていたマラルメは乾杯の音頭を取らされたのである。
この詩はだから、乾杯の挨拶として読むとわかりやすい。冒頭にある杯とはマラルメが持っている当の杯であり、そこには泡や詩が書かれている。またそれと並んで、溺れて逆さになったシレーヌたちも描かれている。
船出に当たって呼びかけている諸君とは,これから宴会を共にする芸術家たちである。マラルメは彼らに、宴会が無事進むようにと呼びかけながら、高々と杯を差し出したのであろう。
なおこの詩は、死後出版された決定版詩集では、冒頭に置かれている。船出に当たっての乾杯のイメージが、これから展開する詩の数々にとって、トップランナーとして相応しいと感じられたのであろう。
Salut – Stéphane Mallarmé
Rien, cette écume, vierge vers
À ne désigner que la coupe ;
Telle loin se noie une troupe
De sirènes mainte à l’envers.
Nous naviguons, ô mes divers
Amis, moi déjà sur la poupe
Vous l’avant fastueux qui coupe
Le flot de foudres et d’hivers ;
Une ivresse belle m’engage
Sans craindre même son tangage
De porter debout ce salut
Solitude, récif, étoile
À n’importe ce qui valut
Le blanc souci de notre toile.
関連リンク: 詩人の魂>ステファヌ・マラルメ Stéphane Mallarmé :生涯と作品
『骰子一擲』ぐらいしか知りませんでした。勉強になります。
Webで『骰子一擲』見つけました。