アメリカの金融不安:ベアー・スターンズの崩壊

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サブプライムローン問題に端を発したアメリカの金融不安は、すでに9ヶ月にもなるというのになかなか治まる気配を見せないばかりか、まずます不透明な様相を深めている。ドル安はその象徴だ。また先日は全米第五位の規模をもつ大手投資銀行ベアー・スターンズが事実上倒産し、JPモルガンによって二束三文で買収された。

ベアー・スターンズの崩壊過程は、金融機関にとって信用というものがいかに重要で、それを失うことがいかに恐ろしい結果を招くか、強烈に示している。この会社の経営状態がおかしいという、あまり根拠があるとはいえないうわさがウォール・ストリートに出回り始めてから、完全に崩壊するまで10日もかからなかったのである。

その原因は、うわさを信じて不安に駆られた投資家が次々と資金を引き上げ、会社が金不足の状態に陥ったことにある。金融機関にとって資金ショートは致命傷になる。支払い能力がなくなった瞬間に、市場から退却を迫られるのだ。

だがベアー・スターンズは粉々に崩壊させるには余りにも巨大だ。その悪影響が他の金融機関に飛び火しないともかぎらない。事態を憂慮したアメリカ財務省は、JPモルガンに働きかけて、救済のための合併劇を仕組んだ。この結果、ベアー・スターンズは一株あたり2ドルで買われた。ついその前まで60ドルの価値があった株である。

これは一種のベイル・アウトだ。アメリカ政府はこれまで、個別企業の救済にはほとんど無関心だった。それが今回は身を乗り出したというので、市場関係者は複雑なとらえ方をしている。前向きにとらえるものは、政府の姿勢に金融秩序維持への強い期待を感じ、後ろ向きにとらえるものは、現在のアメリカの金融市場がここまで脆弱になってきていることの証拠だと考える。

そもそもサブプライムローン問題自身、金融市場への不安感が生んだものだ。そしてその背景には、世界中に堆積している巨額の金融資産がアメリカの金融市場を下支えしているという現実がある。最近のアメリカ経済は、どんな債権でも証券化し、それを金融市場で金に換える癖がついている。その債権があぶないといううわさが広がると、証券がただの紙屑に代わるのではないかと投資家が恐れ、いっせいに資金を引き上げるから、金融市場が大混乱に陥るのである。

一部の学者は、この金融不安を1930年代以来の深刻な事態だととらえている。金融不安が広がり、それが金融縮小のスパイラルをもたらすようだと、実体経済も縮小し、深刻なスタグフレーションを引き起こすかもしれない。もっとひどい場合には経済恐慌にもつながりかねない。

こうした事態の裏側には、資本のグローバル化と極端な流動性がある。資本にはもう国籍などなくなった。世界中から集まってくる代わりに、何事かがおこるとあっというまに消えてしまう。

21世紀の資本主義経済は、新しい段階に入ったようだ。国際金融資本主義とでもいえようか。それは強固な信用を媒介にして、資本が世界中を舞台に自己目的を追求する世界だ。

ともあれ信用を失うことの恐ろしさが今日ほど大きい時代はなかった。ベアー・スターンズが瞬く間に信用を失い、破局に陥ったのは、経営者が自分の会社の現状よりも、自分の快楽を優先するような人間だといううわさが広がったことに、その一因があるといわれている。この経営者は、主な資金の提供者であったヘッジファンドに悪いうわさが立ったときに、それを沈静化させる努力をせずに、ブリッジのゲームに興じていたというのだ。

今日みるような信用をもとにした経済システムのモデルを作り上げたのはアメリカ人だ。そのアメリカ人が今、自分の作ったシステムをもてあましている。


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