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糸を紡ぐ女 La Fileuse:ポール・ヴァレリー


糸を紡ぐ女 LA FILEUSE(ポール・ヴァレリー:壺齋散人訳)

  青い空がのぞいている窓辺で毛糸を紡ぐ女
  外では花壇がメロディアスに揺れている
  古い糸車の単調な音に女はうっとりとした

  青空を吸い込んで 手元もそぞろに
  やわらかい毛を紡ぐのに疲れると 
  女は小さな頭を傾けて居眠りをした

  木の繁みと清浄な空気が生気の泉を作り
  日の光に輝きながら 打ち捨てられた花壇の
  花々にやさしい潤いを恵む

  一本のバラの木に気まぐれな風が吹き寄せると
  バラの木は古びた糸車に向かって一輪の花を
  星のように優雅な挨拶として捧げた

  女はなお眠りながら一人毛糸を紡いでいる
  不思議や女の華奢な影はその長い指先から
  糸とともに紡がれていった

  女の夢もけだるく絶え間なく天使のように
  糸巻きに向かって紡がれてゆく 
  毛糸のほうは女の手に愛撫され波打つのだ

  花々の彼方には青空がなりをひそめる
  糸紡ぎの女は繁みと光に取り囲まれ
  空は沈黙し バラの木は燃え立つ

  お前の妹の大きなバラが 天使のように笑いながら
  さわやかな風に乗せて香りをお前の額に運ぶ
  お前はすっかり疲れきって ぐったりと死んだようだ 

  青い空がのぞいている窓辺でお前は毛糸を紡ぐ

「糸をつむぐ女」と題するこの詩は、ヴァレリーの初期の詩篇を収めた詩集「旧詩帖」の冒頭を飾る。「ナルシスは語る」とともに、彼の初期の詩を代表するものだ。

青空をのぞかせた窓辺を背景にして、毛糸を紡ぐ女のイメージを追っている。居眠りに陥った女の影が糸車の影につながって、そのうちに女の身体が糸車に吸い込まれていくような幻影を生み出す。

そんな女の姿には頓着しないように、窓の外では、青空とその下のバラの花が、自分たちの営みを展開している。

茫漠たるイメージに揺らめいているような詩である。


LA FILEUSE

  Assise, la fileuse au bleu de la croisée
  Où le jardin mélodieux se dodeline ;
  Le rouet ancien qui ronfle l'a grisée.

  Lasse, ayant bu l'azur, de filer la câline
  Chevelure, à ses doigts fragiles évasive,
  Elle songe, et sa tête petite s'incline.

  Un arbuste et l'air pur font une source vive
  Qui, suspendue au jour, délicieuse arrose
  De ses pertes de fleurs le jardin de l'oisive.

  Une tige, où le vent vagabond se repose,
  Courbe le salut vain de sa grâce étoilée,
  Dédiant magnifique, au vieux rouet, sa rose.

  Mais la dormeuse file une laine isolée;
  Mystérieusement l'ombre frêle se tresse
  Au fil de ses doigts longs et qui dorment, filée.

  Le songe se dévide avec une paresse
  Angélique, et sans cesse, au doux fuseau crédule,
  La chevelure ondule au gré de la caresse...

  Derrière tant de fleurs, l'azur se dissimule,
  Fileuse de feuillage et de lumière ceinte :
  Tout le ciel vert se meurt. Le dernier arbre brûle.

  Ta sœur, la grande rose où sourit une sainte,
  Parfume ton front vague au vent de son haleine
  Innocente, et tu crois languir... Tu es éteinte

  Au bleu de la croisée où tu filais la laine.


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