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若きパルク La Jeune Parque :ポール・ヴァレリー


若きパルク La Jeune Parque (ポール・ヴァレリーの詩:壺齋散人訳)

  風も吹かないのに このすすり泣くような音は何でしょう?
  この時刻 ひっそりと 星空の下で泣くのは誰?
  泣こうとするわたしの傍近くで

  この手は 何か深い意図に導かれたように
  わたしの顔に触れることを夢み
  わたしの弱さから涙が零れ落ちてくるのを待つ
  わたしの運命から分かれた純粋さが
  沈黙のうちに引き裂かれたわたしの心を照らす
  うねった波は非難の言葉をわたしにささやき
  岩のまにまに佇んでは
  苦々しく呑みこまれた者のように
  心を締め付けるようなうめき声を立てた・・・

  何をしようというのでしょう 毛を逆立て手を凍らせ?
  わたしの裸の胸の谷間にへばり付いている
  この落ち葉のたてるざわめきは何?
  わたしは輝く この未知なる空につながれながら・・・
  わたしの渇きに呼応して 無限の葡萄がきらめく 

  全能の異邦人 宿命の星々
  遠く離れたところで時を同じくして
  自然を超えた何ものかを輝かせているものたち
  お前はわたしたち死すべきもののうちに
  この至高の光芒 不敗の武器 永遠への希求を 
  涙のしずくのように投げ込むのですか?
  お前とともにわたしはあります 震えつつ寝床を離れ
  波に浸食された暗礁の上に立って そして自分の心に
  訪ねるのです 如何なる苦悩がわたしの心を目覚めさせ
  如何なる罪をわたし自身が犯したのかと
  あるいは罪悪が夢に混じってわたしを追いかけるのかと

  金色の灯がさやかな微風に消え入った時
  わたしは腕を組んでこめかみを押さえ
  わたしの心が輝き出るのを長い間待っていました
  わたしはわたしの肉体の主人なのに
  その肉体は横たわり震えながら硬直するばかり
  わたしの身はとらわれて 血は滞り
  くねくねと左右に動きながら 視線を走らせ
  深い森に眺め入っている自分の姿を見るのでした

森の中でわたしを噛もうとする蛇をわたしは見つめていたのです

「若きパルク」はヴァレリーの最高傑作というにとどまらず、20世紀にフランス語で書かれたもっとも優れた詩とも言われている。だがその特徴はフランス語の持つ音楽性にあるから、フランス語を話さぬ人々に、理解され受け入れられるのはむつかしい。

ヴァレリーはこの詩を40台の半ばに完成したが、それまでに4年の歳月を費やした。意味のつながりではなく、言葉のつながりを求め、それが渾然とした音楽に高まるのを待ち続けたのだ。

この作品には言葉のつながりのほか、深い思想性もある。パルクとはローマ神話に出てくる運命の女神であり、ヴァレリーはその女神の独白を通じて、生と死、愛と別離などの哲学的なテーマについて語らせている。

いわばヴァレリーの中の思想家が、ヴァレリーの中の詩人の口を借りて、己の思いをつづった作品だともいえる。全体は512行からなる長大なものであるが、ここではその冒頭部を紹介したい。


La Jeune Parque — Paul Valéry

  Qui pleure là, sinon le vent simple, à cette heure
  Seule, avec diamants extrêmes ?... Mais qui pleure,
  Si proche de moi-même au moment de pleurer ?

  Cette main, sur mes traits qu’elle rêve effleurer,
  Distraitement docile à quelque fin profonde,
  Attend de ma faiblesse une larme qui fonde,
  Et que de mes destins lentement divisé,
  Le plus pur en silence éclaire un cœur brisé.
  La houle me murmure une ombre de reproche,
  Ou retire ici-bas, dans ses gorges de roche,
  Comme chose déçue et bue amèrement,
  Une rumeur de plainte et de resserrement...

  Que fais-tu, hérissée, et cette main glacée,
  Et quel frémissement d’une feuille effacé
  Persiste parmi vous, îles de mon sein nu ?...
  Je scintille, liée à ce ciel inconnu...
  L’immense grappe brille à ma soif de désastres.

  Tout-puissants étrangers, inévitables astres
  Qui daignez faire luire au lointain temporel
  Je ne sais quoi de pur et de surnaturel ;
  Vous qui dans les mortels plongez jusques aux larmes
  Ces souverains éclats, ces invincibles armes,
  Et les élancements de votre éternité,
  Je suis seule avec vous, tremblante, ayant quitté
  Ma couche ; et sur l’écueil mordu par la merveille,
  J’interroge mon cœur quelle douleur l’éveille,
  Quel crime par moi-même ou sut moi consommé ?...
... Ou si le mal me suit d’un songe refermé,

  Quand (au velours du souffle envolé l’or des lampes)
  J’ai de mes bras épais environné mes tempes,
  Et longtemps de mon âme attendu les éclairs ?
  Toute ? Mais toute à moi, maîtresse de mes chairs,
  Durcissant d’un frisson leur étrange étendue,
  Et dans mes doux liens, à mon sang suspendue,
  Je me voyais me voir, sinueuse, et dorais
  De regards en regards, mes profondes forêts.

  J’y suivais un serpent qui venait de me mordre.


関連リンク: 詩人の魂

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