冷たさが人を包んで :バイロンの宇宙感覚

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バイロンの詩「冷たさが人を包んで」 When coldness wraps this suffering clayを読む。(壺齋散人訳)

  冷たさが人を包んで粘土のように変えるとき
  不滅の魂よ 汝はどこにさまよい出るのだ?
  汝は死すことなく とどまることもなく
  抜け殻となった体を残して飛び出す
  もはや形にとらわれない汝は
  惑星の軌道をひとつずつたどっていくのか?
  それとも広大な宇宙を一瞬のうちに
  内なる目でとらえるのか?

  永遠にして無際限 また衰えることなく
  外からは見られぬが 自らは
  地上また天空のすべてを見る
  記憶の中にあるいかなる残渣も
  暗い彼方に過ぎ去った年月をも
  呼び戻し 見渡すことが出来る
  汝は一瞥を以てあらゆるものを見
  すべてを一瞬のうちに現前させる

  天地創造のはるか以前まで
  汝の目は混沌を突き抜けて遡る
  宇宙の彼方に天空が生じたその場所へと
  汝の魂は遊泳していく
  そして未来が生成するさまを
  汝の一瞥は見逃さない
  太陽が消滅し宇宙が崩壊しても
  汝は永遠のうちにとどまり続ける

  愛、希望、憎しみそして恐怖を超えて
  汝は清浄な命を生き続ける
  地上では一年にあたる歩みも
  汝にとっては一瞬のことに過ぎない
  羽ばたけ 羽ばたけ 翼なしに
  あらゆるものを越えて飛んでゆけ
  名状しがたき永遠の存在
  死などというものは忘れてしまえ

この詩は一読して人間の魂を歌ったものだとわかる。魂は死んだ肉体を遊離して天空へと飛んでいき、壮大な宇宙を遊泳する。しかしその遊泳は普通のイメージには収まらない。それは永遠の現在を遊泳するのであり、宇宙創成のドラマを一瞬のうちに把握する。

バイロンが宗教的な感情をもっていたかどうかは疑わしい。だからこの詩は宗教的な感情にことよせて、宇宙感覚とでもいうべきものを歌ったのだとも受け取れる。


When coldness wraps this suffering clay –Lord Byron

  When coldness wraps this suffering clay,
  Ah! whither strays the immortal mind?
  It cannot die, it cannot stay,
   But leaves its darken'd dust behind.
  Then, unembodied, doth it trace
  By steps each planet's heavenly way?
  Or fill at once the realms of space,
   A thing of eyes, that all survey?

  Eternal, boundless, undecay'd,
  A thought unseen, but seeing all,
  All, all in earth or skies display'd,
   Shall it survey, shall it recal:
  Each fainter trace that memory holds
   So darkly of departed years,
  In one broad glance the soul beholds,
  And all, that was, at once appears.

  Before Creation peopled earth,
   Its eye shall roll through chaos back;
  And where the farthest heaven had birth,
  The spirit trace its rising track.
  And where the future mars or makes,
  Its glance dilate o'er all to be,
  While sun is quench'd or system breaks,
   Fix'd in its own eternity.

  Above or Love, Hope, Hate, or Fear,
   It lives all passionless and pure:
  An age shall fleet like earthly year;
   Its years as moments shall endure.
  Away, away, without a wing,
  O'er all, through all, its thoughts shall fly;
  A nameless and eternal thing,
   Forgetting what it was to die.


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