寓話 Conte :ランボー「イリュミナション」

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ランボー「イリュミナション」から「寓話」 Conteを読む。(壺齋散人訳)

  王子には ただ闇雲に寛大であろうとしていたことが
  なにか馬鹿げたことのように思えた。
  彼はすばらしい愛の革命を予見したのだった。
  そして女たちには飾り立てた媚以上のものが
  期待できるはずだと思った。
  彼は真実が知りたかった
  本質的な欲望と充足のときを。
  それが異常な信念であろうとなかろうと、知りたかったのだ。
  少なくともそのための人間としての能力は十分に持っていた。

  王子を知った女たちはことごとく殺された。
  花園の中の殺戮の何と美しかったことか!
  剣の下で、女たちは王子を祝福したのだった.
  新しい女たちを呼んだわけではないのに
  別の女が次々と現れた。

  狩や宴会の終わった後、王子は従者たちを皆殺しにした。
  それでも皆は王子についてきた。

  王子は喜びながら美しい獣たちを殺した。
  宮殿に火をつけ、人々に襲い掛かっては、ずたずたに切り裂いた。
  だが群集も、黄金の屋根も、美しい獣もなくなることはなかった。

  破壊に恍惚となり、残虐性によみがえるのも、ありうることだ!
  人々は不平をならさず、咎めだてをするものもいなかった。

  ある夕べ、王子は意気高らかに馬を走らせていた。
  すると王子の前に、得も言われぬほど美しい天才が現れた。
  天才の容貌や身のこなしからは、
  あまたの完璧な愛が約束されているようにみえた。
  名状しがたく、耐え難いほどの愛だ!
  王子と天才は、たぶん健康そのものの状態の中で消滅した。
  どうして死なずにいられただろうか。
  彼らは一緒に死んでいったのだ。

  だが王子は、宮殿のなかで、天寿を全うした。
  王子は天才だった。天才は王子だった。
  気の利いた音楽が、俺たちの欲望には欠けている。


Conte - Arthur Rimbaud

   Un Prince était vexé de ne s'être employé jamais
  qu'à la perfection des générosités vulgaires.
  Il prévoyait d'étonnantes révolutions de l'amour,
  et soupçonnait ses femmes de pouvoir mieux
  que cette complaisance agrémentée de ciel et de luxe.
  Il voulait voir la vérité,
  l'heure du désir et de la satisfaction essentiels.

  Que ce fût ou non une aberration de piété, il voulut.
  Il possédait au moins un assez large pouvoir humain.

   Toutes les femmes qui l'avaient connu furent assassinées.
  Quel saccage du jardin de la beauté!
  Sous le sabre, elles le bénirent.
  Il n'en commanda point de nouvelles.
  - Les femmes réapparurent.

   Il tua tous ceux qui le suivaient, après la chasse ou les libations.
  -Tous le suivaient.

   Il s'amusa à égorger les bêtes de luxe.
  Il fit flamber les palais. Il se ruait sur les gens et les taillait en pièces.
  La foule, les toits d'or, les belles bêtes existaient encore.

   Peut-on s'extasier dans la destruction, se rajeunir par la cruauté!
  Le peuple ne murmura pas. Personne n'offrit le concours de ses vues.

   Un soir il galopait fièrement.
  Un Génie apparut, d'une beauté ineffable, inavouable même.
  De sa physionomie et de son maintient ressortait la promesse
  d'un amour multiple et complexe!
  d'un bonheur indicible, insupportable même!
  Le Prince et le Génie s'anéantirent probablement dans la santé essentielle.
  Comment n'auraient-ils pas pu en mourir.
  Ensemble donc ils moururent.

  Mais ce Prince décéda, dans son palais, à un âge ordinaire.
  Le prince était le Génie. Le Génie était le Prince.
  -La musique savante manque à notre désir.


この詩は、ランボーとヴェルレーヌの愛を語ったものだとする説がある。それによれば王子はヴェルレーヌ、天才はランボーということになる。だがそんな解釈では釈然としないものがこの詩にはある。むしろランボーその人の、成長の段階を追ったものだとする解釈のほうがすっきりするようだ。

王子はまだ青々とした少年時代のランボー、天才は見者の知恵に目覚めたランボーだと解釈すれば、その両者が出会ったのは、ランボーが才能を爆発させた瞬間だということができる。

この瞬間にランボーは、世界から消えてしまいたい欲望を感じた。だがそうはならずに、ランボーは生き続けた。そのちぐはくさのもたらす思いが、最後の節の言葉となって表れたのではないか。


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    このページは、が2008年7月10日 19:30に書いたブログ記事です。

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