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東山魁夷の童画展を見る



幻想的な風景画で知られる日本画家東山魁夷の童画展が、千葉県市川市の東山魁夷記念館で開かれている。東山魁夷は東京美術学校(現東京芸術大学)に在学中の昭和初期から終戦近くに至るまで、数多くの童画を製作したが、それらは後年の作品の陰に隠れて、今まであまり注目されることがなかった。だが、それらには風景画の大作とはまた一味違った趣がある。今回はそんな童画をまとめて展示する初めての試みだというので、期待しながら出かけてみた。

東山魁夷記念館は、中山法華経寺の裏手にある。JR下総中山駅から歩いて二十分ほどだ。2005年に開館したということだが、筆者はこれまで法華経寺には度々お参りしながら、ここへは足を運んだことがなかった。この日は法華経寺の境内を通り過ぎ、裏手の坂道を上っていくと、洋風の洒落た建物群が見えてきた。彼自身が住んでいた家ではないらしいが、彼の好みを踏まえて北欧風に建てられている。

展示スペースはそんなに広くはないが、二階建になっていて、一階が生涯と作品の大雑把な紹介、二階が企画展示に当てられている。

企画展示室には、東山魁夷の童画が数十点展示されていた。大部分は雑誌そのもの、あるいはそこからコピーしたものだ。恐らくこの類の絵は、芸術上の価値が正当に評価されず、原画の大部分は散逸してしまったのだろう。それでも上の「象の絵」のように、いくつかは残っているらしく、数点だが、原画も展示されていた。

作品を眺めて渡してまず感じたのは、絵の中の子どもたちが生き生きしていることだ。これらを発表したのが、昭和初期の児童雑誌だったことから当然といえるかもしれないが、とにかくどの絵にも、子どもたちの姿が溢れている。上の象の絵を見れば、わかっていただけるだろう。

東山魁夷がこれらの童画を描き始めたのは、生活費を稼ぐことが目的だったという。美術学校在学中に実家が破産して、学費はもとより生活費も自分で稼がなければならなかったらしい。しかし絵を見ていると、単に必要に迫られて描いたとのみは思われない。彼自身、これらの絵を描くことに喜びを感じていたに違いない。

だが後年の作品群とこれらの動画を見比べてみると、そこには埋めることのできない断絶があるようにも思える。絵画の質そのものが異なっているのだ。だからこれら初期の童画を、東山魁夷という画家の画業の中に位置づけるのはむつかしいかもしれない。

筆者が一番面白く思ったのは、魁夷が若い頃にこれほどまで子ども、つまり人間にこだわっていたのに、後年には人間を描くことをしなくなったことだ。彼の大作はどれをみても、人間の姿が出てこない。偉大とされる画家の中で、これほどまで人間を切り捨てた人は珍しいのである。

ともあれ、この日は好きな作家の違った一面に接することができて、筆者としてはご機嫌だった。目の保養になったのはもとより、心の洗濯にもなった。


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