離騷其二:楚辞・屈原の歌

| コメント(2) | トラックバック(0)

楚辞から屈原の歌「離騷」その二(壺齋散人注)

靈氛既告餘以吉占兮 靈氛既に餘に告ぐるに吉占を以てす
歴吉日乎吾將行    吉日を歴(えら)んで吾將に行かんとす
折瓊枝以為羞兮    瓊枝を折りて以て羞と為し
精瓊爢以為粻      瓊爢(けいび)を精して以て粻(ちゃう)と為す

靈氛が私によい占いを授けてくれたので、吉日を選んで出発しよう、玉の枝を折って采を作り、玉の粥を作って糧食としよう(瓊:玉、爢:おかゆ、粻:旅の糧食)

為餘駕飛龍兮     餘が為に飛龍を駕し
雜瑤象以為車     瑤象を雜へて以て車と為せ
何離心之可同兮    何ぞ離心の同じかるべき
吾將遠逝以自疏    吾將に遠逝して以て自ら疏(とほざ)けんとす

飛龍に車をひかせ、玉の象をまじえて車を作れ、離れた心はもう同じにはなれない、自分から遠くへ去って身を避けることにしよう

邅吾道夫崑崙兮    邅(めぐ)って吾夫の崑崙に道すれば
路脩遠以周流     路脩遠にして以て周流す
揚雲霓之晻藹兮    雲霓の晻藹(あんあい)たるを揚げ
鳴玉鸞之啾啾     玉鸞の啾啾たるを鳴らす

巡り巡って道を崑崙の方へとれば、道ははるか遠く、かつ曲がりくねっている、覆いかぶさった雲霓は旗のようになびき、玉鸞の声がか細く鳴く(雲霓:雲と虹、晻藹:隠蔽するさま、啾啾:こえに小さなこと)

朝發軔於天津兮    に軔(じん)を天津に發し
夕餘至乎西極      夕に餘西極に至る
鳳皇翼其承旂兮    鳳皇は翼(つつし)んで其れ旂(き)を承げ
高翱翔之翼翼      高く翱翔(かうしゃう)して之れ翼翼たり

朝に天の川の渡し場を出発し、夕には西方の果てにたどり着いた、鳳皇は旗を掲げて、高くさまよい戯れながら、和やかに私の車に従いついてくる(天津:天の川の渡し場、翱翔:浮遊すること、翼翼:和やかなさま)

忽吾行此流沙兮   忽ち吾此の流沙に行き
遵赤水而容與     赤水に遵ひて容與す
麾蛟龍使梁津兮   蛟龍を麾(さしまね)いて津に梁かけしめ
詔西皇使渉予     西皇に詔(つ)げて予を渉らしむ

忽ちにして流沙を過ぎ、赤水のほとりに逍遥す、蛟龍を呼んで津に橋をかけさせ、西皇に命じて渡るのを案内させた、(流沙:砂の流れる砂漠、赤水:崑崙から流れ出る川、容與:ぶらつくこと)

路脩遠以多艱兮   路は脩遠にして以て艱多し
騰衆車使徑待     衆車を騰(は)せて徑待せしむ
路不周以左轉兮   不周に路して以て左轉し
指西海以為期     西海を指して以て期と為す

道は長く遠く艱難が多い、そこで多くの車に近道を行かせ、自分は不周の方向へと左に行き、西海で落ち合おうと約束した(徑:近道、期:約束)

屯餘車其千乘兮   屯(あつ)まる餘が車は其れ千乘
齊玉軑而並馳     玉軑(ぎょくたい)を齊へて並び馳す
駕八龍之婉婉兮   八龍の婉婉たるを駕して
載雲旗之委蛇     雲旗の委蛇(いい)たるを載く

集まった私の車は千台、車輪を並べて進んでいく、我が車はくねくねとうねる八頭の竜にひかせ、ひらひらと雲の旗をなびかせて進む(軑:車輪の中心にあるくさび、転じて車輪、婉婉:うねうねとくねる:委蛇:ながくなびく)

抑志而弭節兮    志を抑へて節を弭(とど)め
神高馳之邈邈    神高く馳せて之れ邈邈たり
奏九歌而舞韶兮   九歌を奏して韶を舞ひ
聊假日以媮樂    聊く日を假(か)りて以て媮樂す

心を抑え、速度を控えて徐行しつつ、精神をはるばると高く馳せる、九歌を奏し、九韶を舞い、ゆっくり日を送ってのんびりと遊び楽しむ(弭:抑える、神:精神、假日:日を借りる、のんびりと日を送る)

陟陞皇之赫戲兮   皇の赫戲(かくぎ)たるに陟陞(ちょくしょう)し
忽臨睨夫舊郷     忽ち夫の舊郷を臨睨す
僕夫悲餘馬懷兮   僕夫悲しみ餘が馬懷ひ
蜷局顧而不行     蜷局として顧みて行かず

日の光の輝く皇天に上り、そこから故郷を眺め渡すと、従者たちは悲しみ、馬は故郷を慕い、何度も振り返っては前へ進まない(赫戲:陽光の輝かしいさま、陟陞:登る、蜷局:振り返りつつ進まないさま)

亂曰已矣哉       亂に曰く已(や)んぬるかな
國無人莫我知兮    國に人無く我を知る莫し
又何懷乎故都      又何ぞ故都を懷はん
既莫足與為美政兮   既に與(とも)に美政を為すに足る莫し
吾將從彭咸之所居   吾將に彭咸の居る所に從はん

乱にいわく、やんぬるかな、国には人材がなく、私をわかってくれる者もない、どうして故郷を思ったりできようか、もはや一緒に立派な政治をなす者もいないからには、あの彭咸のあとを追って、彼のいるところに行こう(亂:全体の意をまとめて述べる部分をいう、彭咸:先人の名、屈原同様君をいさめたが容れられず、最後には水に身を投じて死んだ、屈原の理想とした人物像である)


離騒の最後の部分を紹介した。主人公の正即すなわち屈原は、奸臣たちの讒謗に禍されて身の危険さえ感じる。そこで靈氛という巫女に占いをさせると、他国に遠遊するのがよいとの卦がでた。それでも決しかねていると、天からの使いが吉凶であるから従えと進める。

屈原は思い切って旅に出、天空をかけり、四極に遊ぶ。だがその途中ふと下界を見下ろすとそこには楚の国が見え、屈原は望郷の念に駆られる。

最後には、国に人なく、自分を理解してくれるものもいないので、いっそのこと彭咸の居る所(つまり冥界)にいってしまおうと決意を述べ、全編を締めくくる。


中国古代の詩楚辞

  • 詩経国風

  • 古詩十九首

  • 漢詩と中国文化

  • 陶淵明:詩と構想の世界




  • ≪ 離騷:楚辞・屈原の歌 | 中国古代の詩 | 湘夫人 :楚辞・九歌 ≫

    トラックバック(0)

    トラックバックURL: http://blog.hix05.com/cgi/mt/mt-tb.cgi/1073

    コメント(2)

    Bereken zelf uw hypotheek. Hypotheek berekenen? Maak snel een indicatieve berekening van het maximale leenbedrag van uw hypotheek.

    Bereken zelf uw hypotheek. Hypotheek berekenen? Maak snel een indicatieve berekening van het maximale leenbedrag van uw hypotheek.

    コメントする



    アーカイブ

    Powered by Movable Type 4.24-ja

    本日
    昨日

    最近のコメント

    この記事について

    このページは、が2008年10月 1日 19:07に書いたブログ記事です。

    ひとつ前のブログ記事は「アメリカの金融危機:迷走する救済プラン」です。

    次のブログ記事は「ライオンの生態:悲しき雄ライオン」です。

    最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。