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腰痛は二足歩行の宿命か?


腰痛は二足歩行を選択した人類にとって宿命の病だといわれてきた。約600万年前に、チンパンジーと共通の祖先から枝分かれして以来、人類は二足で直立するようになって、脊椎で重い上体を支えなければならなくなり、その結果腰痛に悩むようになったとされてきたのである。

脊椎の構造をみると、下部は骨盤に接続している。チンパンジーの場合には、それが骨盤内部に包まれ、しかも前傾しているのに対し、人類のものは骨盤からまっすぐ上部に向かってのびている。その結果チンパンジーは前かがみで歩き、人類は直立して歩くことができる。

脊椎の中でも骨盤に近い腰椎と呼ばれる部分には、上体の体重が集中してかかってくる。これが腰痛を引き起こす第一の原因である。チンパンジーにはそのような事態は基本的にはないから、腰痛に悩むものはいないだろうと考えられる。

腰痛を引き起こす物理的な原因は、椎間板の劣化である。これが飛び出たり(ヘルニア)、ずれたり(変性すべり症)することによって、周りの神経を刺激し、腰痛をもたらず。このほか、激しい運動などによって腰椎が疲労骨折する場合などもある。

こうしてみると、腰痛は二足歩行の代償のようなものであり、我々人類はそれを宿命として受け入れるほかないのだろうか。だが人間の中には腰痛にならないものもいるし、脊椎には外的な異常がないのに、腰痛を訴えるものもいる。だから二足歩行のみが腰痛の原因だと、一概にはいえないのではないか、そういう疑問もある。

その疑問に答えてくれそうなことを、先日NHKが特集番組の中で紹介していた。

アフリカ・タンザニアで狩猟を行っている人々は、毎日獲物を求めて長い距離を歩き回っている。だから脊椎には大きな負担がかかっているはずなのに、この人たちには脊椎劣化による腰痛は存在しないといってよい。このことから番組は、二足歩行が即腰痛に結びつくわけではないという結論を出していた。

一方ユーフラテス川流域で発見された1300年前の人体遺骨をしらべたところ、それらの多くは背骨が曲がり、脊椎にも劣化が認められた。恐らくこの人々は激しい腰痛に悩んでいたに違いない。

彼らの骨をこのようにさせた原因を、番組は農耕作業に求めた。人力主体の農耕作業は前かがみになって行うものだ。前かがみになると、脊椎には大きな圧力が加わる。姿勢を安定させようとする背筋の力が脊椎に作用するからだ。

このことから番組は、脊椎の劣化は、二足直立姿勢にも原因を有しながら、それのみによって発生するのではなく、前かがみのような無理な姿勢を長期にわたって続けることからもたらされるのだと結論付けていた。つまり、人間の活動様式の変化が腰痛をもたらしたとするものであり、腰痛を一種の文明病とする見方である。

以上は身体的な原因に基づく腰痛発生のメカニズムであるが、身体にはなんら外的な異常が見られないのに、腰痛を訴える人も多い。むしろ身体症状をともなうものは腰痛患者の15パーセントくらいしかなく、大部分の患者は原因不明の腰痛に悩んでいるのである。

これまで整形外科医は、腰痛を訴える患者に身体上の異変が認められないと、特異なケースとして、深く追求することなく、応急的に痛みを緩和する措置をとることでお茶を濁してきたらしい。しかしここ10年ほどの間に、こうした原因不明とされた腰痛にも、隠れた原因があるということが、次第に明らかになってきたという。

そのもっとも大きなものは、ストレスだ。番組では流行作家の夏樹静子女史が腰痛に陥った経緯を紹介しながら、ストレスがどのようにして心因性の腰痛につながるかを紹介していた。

女史は推理小説を書き続けてきたのだが、ある時それとは違った分野に挑戦してみた。すると突然腰痛に襲われた。この腰痛は、執筆作業を中断し、不得意なものを書かなければならないというストレスから開放されることによって、はじめて消失したという話だ。

詳細なことはまだ研究中のようだが、要するにストレスが背筋に作用し、それが腰椎に影響して痛みを引き起こすらしい。

また心因性の腰痛は、脳の働きとも深い関わりがあると推測されている。普通腰椎で起きた異常事態のサインは脳の視床部を経由して脳全体に伝わり、そのうち前頭葉を刺激した部分が痛みとして感知される。ところが前頭葉が、腰からのサインがないにかかわらず、一方的に活発化して、腰痛を感知する場合がある。

つまり前頭葉が一人歩きして腰の痛みを感じさせるのだ。その原因はストレスらしい。これが原因不明の腰痛の実体ではないか、近年こうした見方が有力になってきているという。


関連リンク: 人間の科学






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