« 踊って見せてごらん Dance to your daddy :マザーグース | メイン | シェイクスピアのソネット102  My love is strengthen'd, »


世界金融危機にどう対処するか:財政出動の是非


昨日朝日新聞によるポール・サミュエルソンへのインタビュー記事を紹介したところ、思わぬ反響があった。この記事の中でサミュエルソンはケインズ派経済理論にもとづく財政出動を主張していたのだが、筆者もまた同じ意見だと受け取られたのだ。だが筆者はサミュエルソンやクルーグマンの主張を、私見を交えずに紹介したつもりであって、必ずしも彼らと意見を同じくしているわけではない。

今回の世界金融危機がサプライサイド・エコノミックスの破綻によるものであることは、たしかに彼らのいうとおりだろう。だからといって、それを是正するのに、振り子を180度戻すように、アンチテーゼたるケインズ理論を復活させるべきだということにはつながらない。

今日の世界経済は、ケインズ理論を採用したルーズベルトの時代とは、比較にならないほど複雑になっている。

1929年の大恐慌は、過剰生産が基本的な原因である。資本主義の成熟に伴って、生産能力が飛躍的に拡大し、市場に物が溢れるようになったのは、人類の歴史の上でこれが最初のことだったといってもよいほどだった。しかしその供給能力に匹敵できるだけの需用側のキャパシティが整っていなかった結果、需給のバランスが崩れて、倒産する企業が続出したのだ。

このように、29年の恐慌は、経済の実体レベルでの不調和が原因となっておきたものなのだ。株価暴落に象徴される金融崩壊は、この実体経済の動きを反映した現象だったといえる。ケインズ派の経済理論は、実体経済を構成する需給のバランスを、財政の力によって回復させようとするものだった。

ところが今回の金融危機は、実体経済とは遊離したところで始まったことだ。それは一言で言えば、世界中の投機家たちを巻き込んだ狂気じみたマネーゲームが破綻した結果起きたことだ。それを助長してきたのは、サミュエルソンがいうとおり、ブッシュの共和党政権であり、そのほかの国々の無能な政治家だったろう。

だいたいブッシュのいうことを聞いて、規制緩和や金融の自由化に取り組んだ国はどこでも、アメリカ並みの格差社会を生み出している。日本も例外ではない。そうした国々ではマネーゲームに浮かれる連中が、実体経済を支える人々の汗を犠牲にして、巨額の利益をむさぼってきたのだ。

今回の不況は、虚業たるマネーゲームの破綻が、実体経済まで巻き込んだ結果なのである。29年から30年代に渉る不況とは発生のメカニズムが根本的に異なる。

サミュエルソンがいうとおり、巨額の財政出動が、金融危機とそれのもたらした不況の克服につながるとは決して思えない。実体経済まで疲弊したのは、供給の過剰ではなく、信用収縮が基本的な原因だ。

収縮する信用に財政がカンフル剤の役目を果たすだろうことは、サミュエルソンやクルーグマンのいうとおりだろうが、それはもっとやっかいな副作用をもたらす。

ルーズベルトの時代にあっては、インフレへの懸念は殆ど考慮に入れる必要はなかった。むしろデフレが吹き荒れていたのである。ところが今では、ちょっとした政策の行き過ぎが、世界的なインフレ傾向に油を注ぐことになりかねない。これでは、経済を立て直すどころか、普通の人々に回復不能な打撃を与えるだけだろう。

今必要なことは、市場に健全なルールを回復させることだ。金融といえども、実体経済の上に成り立っていることを確認し、実体経済が健全に運営されるようなルール作りを目指さなければならない。

このことを抜きにして、むやみに財政出動に頼ることは、危険な結果をもたらすだろう。このことは特に、日本の狡猾な政治家たちにいっておきたい。


関連リンク: 世界情勢を読む

  • サミュエルソン金融危機を語る:行き過ぎた規制緩和への批判

  • 2008ノーベル経済学賞はポール・クルーグマン

  • アメリカの金融危機が世界に広がる





  • ブログランキングに参加しています。気に入っていただけたら、下のボタンにクリックをお願いします
    banner2.gif


    トラックバック

    このエントリーのトラックバックURL:
    http://blog.hix05.com/cgi/mt/mt-tb.cgi/1133

    コメントを投稿

    (いままで、ここでコメントしたことがないときは、コメントを表示する前にこのブログのオーナーの承認が必要になることがあります。承認されるまではコメントは表示されません。そのときはしばらく待ってください。)




    ブログ作者: 壺齋散人(引地博信) All Rights Reserved (C) 2006

    リンク




    本日
    昨日