輸出立国日本がまた一つ妙なものを輸出したというので、ちょっとした反響を呼んでいるそうだ。その品目というのがふるっている。生身の人間、しかもホームレスだというのだ。
メキシコ空港のターミナルビルの一角に、9月2日以来三ヶ月もの間、一人の日本人が住み着くようになった。不審に思った空港当局が追い出そうとしても、男はなかなか立ち去ろうとしない。そこで日本大使館に通告したが、大使館の努力を以てしも男は立ち去ろうとしない。
何故こんなところに住み着いているのかという質問に対しては、自分でもよく分らないという奇妙な答えが返ってくるのみ。なんとなくここにいるだけで、特に深い理由はないというのだ。
男は日本を出た時には帰りの航空券も持っていたらしいが、それを使うことなく、だらだらと空港に居ついてしまったようなのだ。大使館では、男の観光ビザが切れるまでの間、男の滞在は合法的なので、特別の理由がなければ強制的に身柄を拘束することはできない、その期限が切れるのを待って強制送還するほかに方法はないだろうといっている。
最初の頃は周りを不審がらせたり怖がらせたりしたものの、今では、男はすっかり空港の名物になってしまった。連日のようにテレビ局がやってきて、男との奇妙な会話を実況する始末。そこへ食べ物を詰めたロゴ入りの容器を男に投げ与え、自社の慈善振りをアピールしようとする不心得者まで出没しているという。
数年前に、やはり空港に居つくようになってしまった男を描いたアメリカ映画「ターミナル」がメキシコで流行ったことがあった。テレビ局はそれを真似しているのかと、男に聞いたところ、男は自分には大した理由はないけれども、あの映画に少しは似ているかもしれないと答え、自分の場合は「ターミナル2」だと胸を張ったそうだ。
男は三ヶ月も入浴していないので、ホームレス特有のいやな匂いを振りまいている。またボサボサに伸びた髪の毛やヒゲには埃がこびりつき、なんともいえない人相をしている。それでも性格がおとなしいためか、空港の用務員たちには、「いい奴だ」との評判だ。
何も外国にいってまでホームレスをやることはないだろうと思うのは俗人の偏見?いまや日本のホームレス事情も国際的な広がりを見せ始めているということだろう。
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