女と男の違い:脳の構造差

| コメント(0) | トラックバック(0)

女と男とでは、生殖という共通の目的に向かって異なる機能を果たすようにできている。これは人間に限らず、動物植物を通じて二倍体を選んだ生き物の宿命だ。機能が異なるのであるから、身体の構造もそれによって異なるし、行動様式にもさまざまな相違が見られる。男は概して社会的かつ攻撃的であり、女は概して家庭的かつ包容性に富んでいるといった具合に。

ところが現代人の通弊として、女と男は生殖上の機能差を別にすれば、身体的にも精神的にもなんら異なるところはないのだという見方がこれまで強かった。女も男も共通の身体構造を持っており、従って病気にかかるメカニズも基本的には同じであるとか、知的能力の発達プロセスも変わるところはない、こういう見方が支配的だった。

しかし、女と男の相違は、単に生殖上の機能差にとどまらず、身体構造の隅々から知的・精神的なありようにいたるまで、かなり違っているのだということが、最近の研究で徐々に明らかになってきた。それを踏まえて、従来の単純な男女同一論を以てしては、かえって女性に不利な結果を招きかねないとの反省が強まってきている。

男女の性差をめぐるこうした問題意識にたって、NHKがユニークな特集番組を放送していた。題して「女と男」。「男と女」でないのは、番組が女性のもつ特殊性のほうに焦点をあてている現われである。

番組はまず、心臓血管障害が男女では異なった現われ方をすることから紹介していた。たとえば狭心症はこれまで冠動脈が閉塞することによって起きると思われていた。そしてそのような症状を呈するのは男のほうが圧倒的に多いから、この病気は男性がかかりやすいものだという認識が支配的だった。

ところが女も狭心症になるのは男と異なるところはない。ただ男と違って冠動脈が閉塞するのではなく、心筋を走っている微小血管が詰まることによって起きる場合が多い。その原因は閉経による女性ホルモンの減少だ。こうしたことが今まではあまり注意を引かなかったので、女性は原因不明のまま狭心症で死ぬケースが多かった。これなどは誤った男女同一観が女性に不利に働いた典型である、といった具合に分りやすく説明してくれる。

番組は更に踏み込んで、男女の性差が脳の構造や機能にも見られると説明していた。脳は人間にとって司令塔ともいえるものだから、それが違っているということは、行動様式や精神生活にも重大な相違があるだろうことを予想させる。

ではどう違うのか。男女の脳を、CTスキャンを用いて分析すると、大きさの異なる場所が10箇所以上あるという。そのうちもっとも顕著なのは海馬と扁桃体で、15歳を超えるとこれらの大きさが男女で異なるようになる。

海馬は記憶をつかさどる部位だが、その右の部分について、男は前のほうが、女は後ろのほうが大きくなるというのだ。脳の右の部分は感性の働きにより強く関連している。その中でも後のほうがいっそうその働きが強いらしい。だから、海馬の右後方の部分が大きいということは、その分感性が豊かだということにつながるのかもしれない。

また扁桃体は恐怖や好悪の感情に関連する部位だが、これは男のほうが大きいという。男は女に比べて情動のコントロールが下手だという説があるが、扁桃体の大きさの差がそれに何らかの関連をもっているのだろうか。

単に大きさを異にするだけでなく、脳の部位がどう働くかについても、男女の間では差があるという。男は主に空間認知に関連する部位を盛んに働かせるのに対して、女はその部位をほとんど使わない。その結果「女は地図が読めない」などといった見方が生ずるのだそうだ。

だからといって、対象認識において女のほうが劣っているということにはならない。女は空間認知にかんする部位の代わりに、言葉に関する部位を盛んに使うことによって、男に劣らぬ対象認知能力を発揮するという。

実際IQテストの結果も、男女間で有意な性差は現れない。ただ問題を解くプロセスが男と女とでは異なっている。おそらく男のほうは抽象的な思考に優れ、女は具象的な把握に優れているということなのだろう。

このことは人間の進化の過程に起因しているのではないかと、番組は推測していた。人間の祖先はアフリカの平原で狩猟と植物採集に依存しながら生きていたが、その頃には狩は男の役目、植物採集は女の役目だった。狩は広い平原を移動しながらするものだから、狩猟の場と自分の家との位置関係を始め、高度な空間認知能力を求められる。その能力のないものは生き残れなかっただろう。

これに対し女は、自分の家を拠点に周辺の植物を採集していた。そのため、どこにどんな植物が生えているかといったように、目印の判別に優れた能力を発揮しなければならなかった。この能力がなければ、たとえば毒のある植物を食う羽目になって、生き残れなかっただろう。

こうしたわけで、原始時代における我々の祖先の男女の役割分担のあり方が、脳の違いをもたらすようになったのではないか。番組はこう推論するわけである。

もし男女が全く同じ脳を持ち、思考や行動様式に違いがないとしたら、人間の種としての適応能力は弱まっていたかもしれない。男女間でパターンを多様化することによって、人間はより広い環境にも適応できたのではないか。つまり男女の脳の違いは、種として生き延びていくうえでの、自然の配慮だった。とりあえず、番組はこういいたかったようだ。


関連リンク: 人間の科学

  • 女は何故男より長生きするか?

  • 長寿世界一は男女とも日本人

  • 男女の出生比率が縮まりつつある!

  • 男の更年期障害




  • ≪ 心筋梗塞で死んだ男 | 人間の科学 | 男が消える日:Y染色体消滅の危機 ≫

    トラックバック(0)

    トラックバックURL: http://blog.hix05.com/cgi/mt/mt-tb.cgi/1301

    コメントする



    アーカイブ

    Powered by Movable Type 4.24-ja

    本日
    昨日

    この記事について

    このページは、が2009年1月13日 21:42に書いたブログ記事です。

    ひとつ前のブログ記事は「聖なるソネット4(黒く汚れた心よ):ジョン・ダン」です。

    次のブログ記事は「太原早秋:李白」です。

    最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。