李白の七言古詩「南陵にて兒童に別れ京に入る」(壺齋散人注)
白酒新熟山中歸 白酒新たに熟して山中に歸る
黄雞啄黍秋正肥 黄雞黍を啄みて秋正に肥ゆ
呼童烹雞酌白酒 童を呼び雞を烹(に)て白酒を酌み
兒女嬉笑牽人衣 兒女嬉笑して人の衣を牽く
高歌取醉欲自慰 高歌醉を取り自ら慰めんと欲し
起舞落日爭光輝 起ちて舞へば落日光輝を爭ふ
游説萬乘苦不早 萬乘に游説すること早からざりしに苦しみ
著鞭跨馬渉遠道 鞭を著け馬に跨って遠道を渉る
會稽愚婦輕買臣 會稽の愚婦買臣を輕んず
余亦辭家西入秦 余も亦家を辭して西のかた秦に入る
仰天大笑出門去 天を仰ぎ大笑して門を出でて去る
我輩豈是蓬蒿人 我輩豈に是れ蓬蒿の人ならんや
濁酒が熟す頃私は家に帰ってきた、鶏が黍を良く食い丸まると太っている、僕を呼び鶏を煮させて濁酒を酌めば、子どもたちは大喜びに騒いで私の衣にすがる、
大声で歌いながら気持ちよく酔おうと思い、立ち上がって舞えば夕日も私の顔も真っ赤に輝く、天子に遊説できるのが遅きに失したのは残念だが、鞭を持ち馬にまたがって長安へ向かって旅立とう、
あの会稽の愚かな妻は亭主を軽蔑して出て行ったが、私もその亭主と同じようにこれから長安へ行く、天を仰いで大笑しながら出発するのだ、我輩は片田舎にうずもれるような人間ではない
李白は42歳のとき、朝廷に召されることになった。そのときの旅立ちの様子をいくつかの詩にしているが、これはそのうちの一つ、妻子との別れを歌ったもの。
南陵は安徽省にある。李白は三十歳台には安陸に住んでいたから、この年になるまでに家を移していたことが分る。しかしその妻が誰で、ここに歌われている子どもたちが誰の生んだ子なのかは、詳しくわかっていない。
「會稽の愚婦買臣を輕んず」は、前漢の朱買臣の故事。買臣の妻は亭主の無能をあざ笑って出て行ったが、後に買臣は出生して妻を見返したというもの。この買臣のように我輩も出世してお前たちをあっと言わせて見せるぞと、李白はユーモアたっぷりだ。
関連リンク:李白:生涯と作品
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