« 自殺幇助と死ぬ権利 | メイン | 杜陵絶句:李白 »


オバマ政権の経済政策


オバマ政権が発足して一月半が経過した。この間オバマ大統領は差し迫る金融危機への対応に追われ、選挙期間中に掲げていた経済政策の枠組みについては、本腰を入れて実施するだけの余裕がなかった。だが新たな予算編成のなかで、一気にその遅れを取り戻し、アメリカを新たな社会的枠組に導いていこうとする意欲をのぞかせた。

オバマが予算編成方針の中で打ち出した経済政策の特徴は、一言で言えば、レーガノミックスからの脱却である。

レーガン大統領が登場して以来、アメリカは自由競争の徹底を旗印に、小さな政府を標榜しながら、富めるものを優遇し、社会全体として成長していくような方向を目指してきた。これは経済理論の面では、サプライサイド・エコノミクスに立脚しており、社会全体の富が増大すれば、その恩沢が国民の各層に広くいきわたるという信念に支えられていた。レーガン以降、共和党は無論、民主党の政権も基本的にはこの枠組の中で動いてきたといえる。

だが自由競争があまりにも節度なく行われた結果、国民の間の格差が拡大し、一握りの富裕層が富を独占する一方で、大量の貧困層が生み出されてきた。また自由主義経済のグローバル化は、過度の生きすぎなマネーゲームとあいまって、深刻な世界同時不況を現出させるにいたっている。

こうした反省に立って、オバマ政権は国民の間の格差を縮小する経済政策を意図的に押し出した。その柱は二つある。一つは税を通じての所得の再配分機能の強化であり、二つ目は中間層や貧しい人々の所得そのものを引き上げる政策である。

オバマ政権は税制の構造を抜本的に改め、富裕層からはより多く、貧困層からはより少なく課税する方針を打ち出した。こうすることで、国民の80パーセント以上を占める中間層以下の可処分所得を底上げし、それで内需を拡大する効果をも狙っている。今までの30年間は一貫して、富裕層の負担軽減の流れに乗ってきたから、これは大きな転換を意味する。

国民各層の所得水準を引き上げる方策には、税制と違って即効的なものはない。その中でオバマ政権が力を入れているのは、医療と教育の改革である。医療については、保険制度を改革して、貧困層の負担軽減を目指している。教育については、貧困層の子どもたちも能力に応じて大学教育を受けられるように、奨学金の制度を手厚くすることを考えている。

オバマ政権はこうした新しい枠組みを導入するに際して、全体としての国民の税負担を求める考えは今のところ示していない。これまでの総枠の延長線上で、負担の再配分をすることで、所得の再配分を図ろうとする姿勢をとっている。

それでも医療や教育には金がかかる。したがってその分政府の赤字要因も増えかねない。オバマ政権はそのプラスアルファ部分を、既得権にメスを入れることでひねり出そうとしている。具体的には各種の補助金だ。さまざまな経済団体への補助金、医療保険分野への補助金、そして銀行や農業団体への各種補助金、こういったものは莫大な額に登る。これを整理縮小することで、赤字要因を減少させようとする狙いだ。

この新しい予算はもちろん議会の同意を必要とするため、まだそれが実現するかどうかは定かではない。しかしもしそれが実現したとしたら、アメリカは30年ぶりに国の舵取りの方向を変えることになろう。


関連リンク: 世界情勢を読む

  • アメリカ大統領選 Election 2008:オバマ勝利の意味

  • サミュエルソン金融危機を語る:行き過ぎた規制緩和への批判

  • アメリカの金融危機が世界に広がる






  • ブログランキングに参加しています。気に入っていただけたら、下のボタンにクリックをお願いします
    banner2.gif


    トラックバック

    このエントリーのトラックバックURL:
    http://blog.hix05.com/cgi/mt/mt-tb.cgi/1396

    コメントを投稿

    (いままで、ここでコメントしたことがないときは、コメントを表示する前にこのブログのオーナーの承認が必要になることがあります。承認されるまではコメントは表示されません。そのときはしばらく待ってください。)




    ブログ作者: 壺齋散人(引地博信) All Rights Reserved (C) 2006

    リンク




    本日
    昨日