経済不況が世界規模で拡大し、どこの国の人々も、所得の減少はもとより、職そのものを失う事態まで拡大している。こうした風潮の中で、人々の財布の紐はいやおうなしにきつく締められようになり、消費はかつてない冷え込えこみをみせている。
ところがこうした時代環境を尻目に、高級品に対する需要は減少していないばかりか、かえって増加する勢いもみられるという。
たとえば衣料品についていえば、安いばかりが売り物の製品は売り上げをドラスティックに減少させているのに対して、高級ブランドといわれる製品は、昨年の秋、つまり世界不況が本格化して以降、売り上げを大幅に伸ばしているというし、家具などの耐久消費財にも高級品の売上増加が認められるという。
なぜこんなことが起きるのか。その辺の事情をニューズウィークの最近号の記事が分析していた。A few good shirts By Jonathan Tepperman
記者は自分自身の体験を引き合いに出しながら、人々の所得の状態と消費のあり方との相関関係を分析している。
記者はいう、経済が好況で所得が順調に伸びているような状態では、財布の紐はおのずから緩む、その結果人々は必要以上にものを買うようになり、とくに相対的に価格が安いと思われるものをどんどん買うようになる。実際記者の場合にも、景気のよいときには、ワイシャツやネクタイを次から次へと買いあさり、タンスの中はほとんど着る機会のない衣類で満ち溢れていたということだ。
ところが不況になって所得が減少すると、人々の財布の紐はきつく締められるようになり、好況の時代に比べて消費意欲は極端に低くなる。記者も以前のような衝動買いはしなくなり、よくよく選んだうえ本当に必要なものだけを買うようになったそうだ。
不景気で金回りが悪くなったとはいえ、必要なものは買わなければならない。そうしたときに、人々はどんなものにどれだけの金を使うべきか、記者のようによりいっそう熟慮するようになる。これまでだったら、多少粗悪な品物でも、値段が安ければ買っていた。しかし財布の中味がうすい状態ではそんな無駄な買い物はできない。人々は真に価値あるものにしか金を出そうとしなくなる。
こうした心情が働いて、安物は敬遠され、高級品が買われるようになると、記者は分析する。
記者がいう高級品とは、漠然としたブランドイメージをさすのではなく、実質的な使い勝手のよさを指す。たとえばスーツやシャツの場合をとっても、形のかっこよさばかりではなく、仕立てのよさや品持ちのよさといった点で、抜きん出た性質をもったもののことをいう。
こうしたものは、買った当初の値段こそ高いかもしれないが、長い目でみれば、安物に比べ、大きな満足を与えてくれるのはもちろん、実際的な効用の面でも大きな利点をもっている。安物のシャツは数回着れば、型が崩れボタンがとれたりしやすいのに、高級品のシャツはいつまでたっても買ったときと同じ状態を保ち続けるものだ。
こうしたわけで、不況の時代には、消費者のものを見る目が厳しくなる結果、安かろう悪かろうの品物は見向きされなくなる一方、本当に質の高いものは多少値段が張っても買われるのだということらしい。
記者によれば、1930年代の大不況の時代にも、同じような現象が生じたという。その時代にも、消費全体が劇的に縮小する中で、品質が高いと認められた商品は順調に売り上げを伸ばしたというのだ。
関連リンク: 日々雑感
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