奇妙な出会い Strange Meeting:ウィルフレッド・オーウェン

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ウィルフレッド・オーウェン Wilfred Owenの詩「奇妙な出会い」Strange Meeting(壺齋散人訳)

  ぼくは戦場を逃げ出して
  花崗岩を抉ってできた深くて暗い
  トンネルの中を歩いているようだった
  そこは横たわったものたちがうめき声をたてていた
  考え事をしてるのか 断末魔のうめきか 身じろぎもしないで

  様子を探っているとひとりの男が身を起こし
  目を凝らしたまなざしでぼくを見る
  まるでぼくを祝福するかのように手をのばして
  男の微笑からぼくはここが恐ろしい広間だと
  その死んだ微笑からここが地獄だと悟った
  亡霊のような顔には無数の恐怖が刻まれている
  だが地上からは血がしたたり落ちてくることはなく
  地上の銃声も聞こえずうめき声も漏れてこない

  "誰だか知らないけど" ぼくは言った "ここには嘆くべきことはない"
  "そのとおりだ" 男は言った "過ぎ去ってしまった日々や
  希望のないことは別だが 
  君の希望がどんなものにせよ ぼくにも希望があった 
  ぼくは野生の美を追い求めて 世界を飛び回った
  それは人のまなざしの中に静かに映るようなものではなく
  時間の歩みを打ち破るような烈しいものだった
  嘆きがあるとすれば ここでの嘆きより強いものだった

  ぼくは陽気になって人々を笑わせることもできた
  また叫ぶこともできた だが何かを叫び忘れていた
  その叫び忘れていたものとは 真実のことだ
  戦争の悲哀 戦争がかもし出す悲惨のことだ

  このおぞましいことにはもう満足してもよいだろう
  なのに人々は満足せずに血を流し合い
  トラのような敏捷さで戦場を駆け巡り
  戦列を離れようとしない それだけ進歩から取り残されるのに

  ぼくは勇気を持っている 不思議な勇気を
  ぼくは知恵を持っている 大いなる知恵を
  それでもって世界が壁のない城砦へと
  退却していくことを阻止したいんだ

  血の海ができて戦車が進めなくなったとき
  ぼくは起き上がって兵士たちの血をきれいな泉で洗ってやろう
  汚すことのできないほど深い真実で清めてやろう
  ぼくは自分の魂を惜しみなく注いでやる
  傷を癒すためではなく 戦争をやめさせるために

  ぼくは君が殺した敵兵なんだ
  この暗がりでもすぐ分った 君はそんなふうにしかめ面をしながら
  昨日ぼくを剣で刺し殺したんだ
  はらいのけようとしたけど 手がかじかんでできなかった
  もう寝よう"


オーウェン詩集の冒頭を飾る詩であり、彼の詩を世界中に広めるに当たって、最も影響力を発揮したものだ。サスーンもこの詩を絶賛し、この詩ひとつだけでも、オーウェンの名は永久に残るだろうといった。

詩が歌っているのは、塹壕の中での陰惨な光景だ。かつて殺しあった敵同士がそこで出会う。死ぬつつある人間は「俺はお前が殺した敵だ」というが、その言葉には、憎しみや恨みはこもっていない。死に行くものも、生きているものも、個人的な憎悪を超えて、人間としての普遍的な感情を重んじている。

奇妙な出会いという言葉には、こうした人間的な感情がもたらした出会いという意味が込められている。この詩の中の一説「I am the enemy you killed」は、オーウェンの墓に刻まれた。


Strange Meeting

  It seemed that out of the battle I escaped
  Down some profound dull tunnel, long since scooped
  Through granites which Titanic wars had groined.
  Yet also there encumbered sleepers groaned,
  Too fast in thought or death to be bestirred.

  Then, as I probed them, one sprang up, and stared
  With piteous recognition in fixed eyes,
  Lifting distressful hands as if to bless.
  And by his smile, I knew that sullen hall;
  By his dead smile I knew we stood in Hell; 
  With a thousand fears that vision's face was grained;
  Yet no blood reached there from the upper ground,
  And no guns thumped, or down the flues made moan.

  "Strange, friend," I said, "Here is no cause to mourn."
  "None," said the other, "Save the undone years,
  The hopelessness. Whatever hope is yours,
  Was my life also; I went hunting wild
  After the wildest beauty in the world,
  Which lies not calm in eyes, or braided hair,
  But mocks the steady running of the hour,
  And if it grieves, grieves richlier than here.

  For by my glee might many men have laughed,
  And of my weeping something has been left,
  Which must die now. I mean the truth untold,
  The pity of war, the pity war distilled.

  Now men will go content with what we spoiled.
  Or, discontent, boil bloody, and be spilled.
  They will be swift with swiftness of the tigress,
  None will break ranks, though nations trek from progress.

  Courage was mine, and I had mystery;
  Wisdom was mine, and I had mastery;
  To miss the march of this retreating world
  Into vain citadels that are not walled.

  Then, when much blood had clogged their chariot-wheels
  I would go up and wash them from sweet wells,
  Even with truths that lie too deep for taint.
  I would have poured my spirit without stint
  But not through wounds; not on the cess of war.
  Foreheads of men have bled where no wounds were.

  I am the enemy you killed, my friend.
  I knew you in this dark; for so you frowned
  Yesterday through me as you jabbed and killed.
  I parried; but my hands were loath and cold.
  Let us sleep now . . ."


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