チャンス The Chances :ウィルフレッド・オーウェン

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ウィルフレッド・オーウェンの詩「チャンス」The Chances(壺齋散人訳)

  あれはたしか前の晩のことだった ぼくらは五つの可能性について
  話していたのだった こんなことを知らされて
  "明朝早々 おれたちは任務に就く
  第一陣の突撃隊だ 万事休すだ"
  "ああ"とジムがいった、どこか落ち着かぬ様子で
  "おれたちには五つのこと以外には起こらない
  潰されるか、大怪我をするか、良かれ悪しかれ
  すざすたにされるか 消されるか 運良く生き延びるかどれかだ"

  結局ひとりは潰されて 粉みじんに吹き飛ばされた
  ひとりは大怪我をして手足が吹っ飛んだ
  ひとりは 体裁よく言えば
  運悪くドイツの捕虜になった
  そしてこのぼくは 神の加護のおかげで無事に済んだ
  (もっともその次には無事にはすまなかったが)
  だがあわれなジムは 生き延びたともそうじゃないともいえる
  あいつは自分でいっていたとおり 五つのケース全部が重なった
  傷つき 殺され、捕虜にもなった  
  つまり狂ってしまったんだ


限界状況が人間を狂気においやることは良くある。戦争において、自分の存在をかけた戦いに直面するとき、弱いものは、その重圧に耐え切れずに、傷つく、そして心を狂気によってとらわれる、しかもその狂気は人をこの世から別の世へと連れ去るから、殺されるのも同然だ。

オーウェンのこの詩は、そんな限界状況を歌っている。オーウェン自身も、重圧に耐え切れずに、心を病んだのだった。


The Chances

I mind as 'ow the night afore that show
Us five got talking,-we was in the know,
"Over the top to-morrer; boys, we're for it,
First wave we are, first ruddy wave; that's tore it."
"Ah well," says Jimmy, -an' 'e's seen some scrappin' -
"There ain't more nor five things as can 'appen;
Ye get knocked out; else wounded - bad or cushy;
Scuppered; or nowt except yer feeling mushy."

One of us got the knock-out, blown to chops.
T'other was hurt, like, losin' both 'is props.
An' one, to use the word of 'ypocrites,
'Ad the misfortoon to be took by Fritz.
Now me, I wasn't scratched, praise God Almighty
(Though next time please I'll thank 'im for a blighty),
But poor young Jim, 'e's livin' an' 'e's not;
'E reckoned 'e'd five chances, an' 'e's 'ad;
'E's wounded, killed, and pris'ner, all the lot -
The ruddy lot all rolled in one. Jim's mad.





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