ここ数年来日本経済を苦しめてきたデフレが依然止まらないばかりか、勢いを増してきているようだ。スーパーにいくとよくわかる。食料品を始めとした日常用品の価格が一段と下がっており、価格競争のすさまじさを改めて感じさせる。その象徴となっているのが自社ブランドというものだ。
自社ブランドは、価格競争に対応するために導入されたものだ。そのほとんどは既成のメーカーによって作られているが、商品にはメーカーの名が記されることはなく、小売業者たるスーパーの名前が記されている。この仕組みによって、従来のルートで調達するよりも、原価を三割抑えることができるという。広告費や流通費用がカットできるほか、安定的でかつ大量の調達を背景に価格を抑える効果を期待できるからだ。
価格競争の圧力が高まっているのには、消費者側の事情が作用している。雇用不安や賃金カットによって勤労者世帯の可処分所得が減少していることに加え、大量の非正規労働者の登場によって、低賃金で購買能力の低い人々が爆発的に増えている。そうした人たちは日々の生活を維持するのに精一杯で、消費支出を極端に低く抑える傾向が強い。専門家によれば、今日の平均的な世帯が食料に振り向ける金額は月4万円程度だというから深刻だ。高いものは売れないような社会構造が出来上がってきているのだ。
小売側は生き残りを掛けて、低価格競争に拍車がかける。食料を選ぶ基準として、かつては価格の安さと安全性が二本柱になっていたが、最近は安全性に目をつぶってでも、安いもののほうに飛びつく。自社ブランドなどは生産者の情報が二の次になっている点で、安全性の面で問題があるという指摘があるが、消費者としては、そんなことに気を使っている余裕はないということなのだろう。
価格競争はどこまで進むのか。それは商品の価格を構成している原価要素をどこまで縮減できるかにかかっている。食料品においては、原価の中で労働費の占める割合が圧倒的だ。だから価格を下げるためには労働力コストを下げなければならない。つまり競争のツケが農業従事者など生産者側に回されているというのが実態だといえる。
農業以外でも労働力コストの占める割合が多い分野では、従業員の賃金がどんどん切り下げられていく。こうして可処分所得が低いプアな層がどんどん拡大していく。価格競争がもたらした一種の消耗戦ともいえる事態だ。
いまの日本経済を見ていると、社会全体が負のスパイラルに陥っているかの印象を受ける。負のスパイラルは国民の多くをじわじわと貧困地獄に導いていく。どうもこんな情けない構図が浮き上がってくるのだ。
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