ハリー王子はシュルーズベリーでの戦いで、宿敵ホットスパーを倒す。ホットスパーがヘンリー四世に襲い掛かり、王を殺そうとする場面にハリーが駆けつけて、間一髪で王の命を救ったのである。
ホットスパーが倒れたところには、フォールスタッフが死んだまねをして横たわっていた。王子はフォールスタッフを見て、すっかり死んでいるものと思い込む。そしてフォールスタッフのために、哀悼の言葉を発する。
ヘンリー王子;おや仲間のジャックじゃないか! お前のその肉体は
小さな命も引き止められなかったのか 哀れなやつ さらばじゃ!
お前以上の人間を失っても こんな悲しい思いはしないだろう
お前と一緒に空騒ぎをしていたときが
むしょうになつかしく思われるぞ
今日の戦いの中で多くのものを失ったが
お前を失ったことが一番残念だ
いずれハラワタを抜いて葬ってやるから
それまで血まみれのままパーシーのそばで寝ておれ
PRINCE HENRY ; What, old acquaintance! could not all this flesh
Keep in a little life? Poor Jack, farewell!
I could have better spared a better man:
O, I should have a heavy miss of thee,
If I were much in love with vanity!
Death hath not struck so fat a deer to-day,
Though many dearer, in this bloody fray.
Embowell'd will I see thee by and by:
Till then in blood by noble Percy lie. [Exit PRINCE HENRY]
だがフォールスタッフは死んでいたわけではなかった。王子が立ち去るとむっくりと起き上がり、まだ生きていることをとりあえず喜ぶのだ。
フォールスタッフ;ハラワタを抜くだって!今日ハラワタを抜いたら
明日はそれを塩漬けにして食ってもいいぞ
やれやれ死んだ振りをしていてよかった
さもなければ あのパーシーめにひどい目にあわされるところだった
死んだ振り? だが偽者になったわけじゃないぞ
死ねば人は偽者になる
人間の命を持っていないものはただの人間の偽者だ
ところが生きていながら死んだ振りをすることは
偽者になることじゃない
生きている人間そのもののままだ
最上の勇気とは分別のことだ
俺はその分別によって自分の命を救ったのだ
それにしても俺はこのパーシーめが怖い たとえここに倒れていても
もしこいつが死んだ振りをしていて 俺同様起き上がったらどうなる?
実際こいつだって死んだ振りをしてるかも知れないのだ
だから念のために 俺がこいつを殺したことにしておこう
そうすれば俺のように起き上がったりはしないはずだ
人の目が気になるが 誰も見てるものはない
FALSTAFF; [Rising up] Embowelled! if thou embowel me to-day,
I'll give you leave to powder me and eat me too to-morrow.
'Sblood,'twas time to counterfeit, or
that hot termagant Scot had paid me scot and lot too.
Counterfeit? I lie, I am no counterfeit:
to die, is to be a counterfeit;
for he is but the counterfeit of a man who hath not the life of a man:
but to counterfeit dying, when a man thereby liveth,
is to be no counterfeit,
but the true and perfect image of life indeed.
The better part of valour is discretion;
in the which better part I have saved my life.
'Zounds, I am afraid of this gunpowder Percy, though he be dead:
how, if he should counterfeit too and rise?
by my faith, I am afraid he would prove the better counterfeit.
Therefore I'll make him sure; yea, and I'll swear I killed him.
Why may not he rise as well as I?
Nothing confutes me but eyes, and nobody sees me.
ハラワタを塩漬けにして食ってもよいぞ、という言葉は、生きている喜びから発せられたものだろう。死んでいては、そんな心配までする余裕はないだろうから。
最後の言葉にあるとおり、フォールスタッフは、ホットスパーを殺したのは自分だと言い張る。それは戦功目当てのうそともいえるが、フォールスタッフ自身にとっては、それ以上の意味もある。つまり、あの恐ろしいホットスパーが本当に死んだことを、自分に確信させるためのおまじないのようなものなのだ。
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