教育現場における生徒の貧困問題について、このブログで取り上げたのは昨年三月のことだ。失業や非正規雇用のために親の経済状況が悪化し、昼間の高校にいけない子どもたちが定時制高校に大量に流れているという実態について考えてみた。あれからまだ1年半しかたっていないが、子どもをめぐる状況はますます悪化しているようだ。そんな現状をNHKの取材番組「セーフティネットクライシス」が伝えていた。
子どもをめぐる貧困の状況は、定時制高校の分野のみならず、医療や健康、義務教育のさまざまな分野に広がりつつある。病気にかかってもきちんとした治療が受けられない、育ちざかりにかかわらずまともな食事ができず、ひどい場合には学校給食が命綱になっている、自分の学費にとどまらず家族の生活を支えるためにアルバイトを余儀なくされる、こんなケースが普遍化しているというのだ。
NHKの調査によれば、貧困家庭の子どもは、いまや全体の7分の1を占めるに到った。これは先進国といわれるグループの中で最悪の数字だという。国民生産世界第二位の経済大国であるにかかわらず、子どもたちがこんな状態に置かれているというのは、肌寒くなるような事態だ。子どもに明るい未来の無い社会は、いづれ衰退していくことは目に見えている。
NHKはこれを、子どもをめぐるセーフティネットクライシスとしてとらえている。子どもを貧困の影響にさらした原因については、とりあえず脇へおき、子どもの貧困の現状とそれへの社会的取り組みを考えようという姿勢だ。
現象面からいえば、子どもの貧困は待ったなしの状態にあり、何らかの手を早急に打たなければ、とんでもないことになりかねない。
ここで大切なのは、国民全体が子どもをどう支えていくかについて、社会的なコンセンサスを確立することだという。先に民主党がマニフェストに盛り込んだ子ども手当てや高校授業料無料化について、いまだに反対論があるように、社会全体として子どもどう支えていくかについて、広いコンセンサスが出来上がっているとはいえない。
日本は先進諸国の中で、子どもに対する財政支出が最も低い。子どもに対する教育支出も最低だ。これは、子どもは親の責任で育てるものだという意識がいまだに強く、社会全体で育てるものだという姿勢が弱いことの現われだろう。
しかし日本の今の社会を見ると、親の貧困や社会保障の行き詰まりなどのしわ寄せが子どもに集中するような構造になっている。やはり社会全体として子どもの成長を支えるようなシステムを確立しないことには、日本の子どもたちにとって、明るい未来がまったく閉ざされてしまうことになりかねない。子どもはもはや親だけのものではなく、社会全体の宝だという、意識の転換が必要になっている。
番組には、民主党の政策責任者、経済界、大学教授、NPO代表の4人が出て、それぞれ意見を述べていたが、子どもを社会全体で支えようという理念に関しては、一致していたようだ。経済界はそれを、教育に対する投資という視点から評価していたが、どんな視点であれ、社会が自分の責任として子どもを支えていくという姿勢は、重要だ。
国の本当の実力は、国民一人ひとりの実力の総和だ。だからどんな子どもでも、自分の才能を最大限に発揮できるような社会が、長い目でみて発展していく可能性をもった社会なのだといえる。子どもへの投資を怠るようでは、その社会の未来は危うい。番組を見ながら、そんなことを考えさせられた。
関連記事: 定時制高校の生徒たち
コメントする