杜甫の七言律詩「月夜」(壺齋散人注)
今夜鄜州月 今夜 鄜州の月
閨中只獨看 閨中 只獨り看る
遙憐小兒女 遙かに憐れむ小兒女の
未解憶長安 未だ長安を憶ふを解せざるを
香霧雲鬟濕 香霧 雲鬟濕ひ
清輝玉臂寒 清輝 玉臂寒からん
何時倚虛幌 何れの時にか虛幌に倚りて
雙照淚痕乾 雙び照らされて淚痕乾かん
今夜鄜州の月を、妻はひとりで見ていることだろう、遥かに哀れに思うのは、小さな子供たちが、父のいる長安のことをまだわからぬことだ
香霧に妻の黒髪は潤い、月の光を受けて肌寒い思いをしているだろう、いったいいつになったら二人して虛幌に寄りかかって、ともに月を見ながら涙の乾く日が訪れるだろうか
長安で幽囚されていた杜甫が、鄜州に置いてきた妻子を思いやって歌ったもの。長安に連れてこられて最初に書いた詩だともいわれる。杜甫の詩の中でも、最も名高いもののひとつだ。それは素朴な家族愛が、素直に歌われていることによるのだろう。
現にひとりでとらわれになっている身も、想像の中では妻と二人でいることができる。この想像がいつか現実となるとき、いま流している涙も乾くことだろう。
関連サイト: 杜甫:漢詩の注釈と解説
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