ティターニアとロバの頭:真夏の夜の夢

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ロバに変身したボトムをティターニアが愛するシーンは、真夏の夜の夢という作品の中でもっとも強烈なインパクトを持っている。ティターニアは夫のオベロンによって、意に従わぬ罰として怪物を愛するように仕向けられるのだが、それがなぜロバでなければならなかったのか。

ロバは、ヤン・コットによると、アプレイウスの「黄金のロバ」の挿話が示すように、古代からルネサンスまで、動物の中でもっとも強い性的能力を持つと信じられていたそうだ。その男根はあらゆる四足獣のなかで最も長く、またもっとも固い。だからロバを相手にセックスすることは、最も強烈な快楽に結びついていると妄想された。

女性とロバとの恋愛ということ自体、グロテスクな動物譚であるといえるが、ティターニアという女性の周りにはもともと、動物や性的なイメージがちりばめられている。

ティターニアに仕える妖精たちは、豆の花、蜘蛛の巣、蛾、芥子の種などと呼ばれている。彼女らは主人のもとに突然現れたロバの世話をすることになるが、なぜこんな変な名前なのかは、上っ面からはわからない。ところがコットによれば、これらは皆魔女の用いる媚薬の成分だというのだ。性的なイメージを高める細工としては気が利いているだろう。

そんなティターニアの前に、ロバの頭を乗せたボトムが歌いながらあらわれる。

  ボトム:(歌う)
   色が黒くて くちばしが
   オレンジ色の黒ツグミ
   歌が上手なウタツグミ
   華奢な体のミソサザイ
  ティターニア(起き上がりながら)
   どんな天使かしら わたしを花のベッドから起こすのは?
  ボトム:(歌う)
   ヒワにスズメにヒバリです
   率直なところはカッコウの声
   こいつに声を掛けられたら
   だれもいやとは答えない(第三幕第一場)
  BOTTOM:{Sings}
   The ousel cock so black of hue,
   With orange-tawny bill,
   The throstle with his note so true,
   The wren with little quill,--
  TITANIA:[Awaking]
   What angel wakes me from my flowery bed?
  BOTTOM:[Sings]
   The finch, the sparrow and the lark,
   The plain-song cuckoo gray,
   Whose note full many a man doth mark,
   And dares not answer nay;--

オベロンに魔術をかけられているティターニアは、このロバにすっかり一目惚れをする。そしてロバの愛を得ようと、自分のほうから積極的に働きかける。

  ティターニア:ねえ やさしいお方 もう一度歌ってみて
   私の耳はあなたの声に魅せられ
   私の目はあなたの姿に魅せられたの
   私はあなたの美しさにすっかり心を動かされ
   一目見ただけで あなたを愛してしまいましたの(第三幕第一場)
  TITANIA:I pray thee, gentle mortal, sing again:
   Mine ear is much enamour'd of thy note;
   So is mine eye enthralled to thy shape;
   And thy fair virtue's force perforce doth move me
   On the first view to say, to swear, I love thee.

ボトムはこの美しい女性が、何故自分にこんな態度をとるのか、無論わからない。第一ロバに変身したことも十分に理解できていないのだ。

  ボトム:あまり理屈が通っているとはいえないようですな 奥さん
   とは申せ このごろは理屈と恋とは仲がよろしくないようだ
   だれか気の聞いたものが仲直りさせてやらんのは残念というものです
   いやはや 俺も時には気の利くことをいうものだ
  ティターニア:あなたって美しいだけでなく そのうえ賢いのね
  BOTTOM:Methinks, mistress, you should have little reason
   for that: and yet, to say the truth, reason and
   love keep little company together now-a-days; the
   more the pity that some honest neighbours will not
   make them friends. Nay, I can gleek upon occasion.
  TITANIA:Thou art as wise as thou art beautiful.

すっかりロバに夢中になったティターニアは、侍女の妖精たちにロバの世話をさせた後、二人でベッドに向かうことをほのめかす。

  ティターニア:さあみんな このかたを私の臥所にご案内して
   お月様がまるで涙を流しているように見えるわ
   お月様が涙を流すと 花たちも涙に濡れる
   乙女の操が破られるのを悲しんで そうするのよ
   さあこの方を静かにお連れしなさい(第三幕第一場)
  TITANIA:Come, wait upon him; lead him to my bower.
   The moon methinks looks with a watery eye;
   And when she weeps, weeps every little flower,
   Lamenting some enforced chastity.
   Tie up my love's tongue bring him silently.

乙女の操が破られるとは性交の隠喩だ。ティターニアはロバの長くて硬い男根で自分の操が破られることを切望している。やがて二人はベッドの中でもつれ合うことになるだろう。

だが通常の舞台では、そんな演出がされることはまずない。場面はあくまでもロマンティックに、二人のやり取りは少し変わってはいるが、愛する男女の恋の駆け引きくらいにしか解釈されない。だがそれではシェイクスピアの本意を捉えたことにはならない。シェイクスピアはこの場面で、男女の性愛を祝祭的かつ最大限エロティックに描き出しているのだ。


関連サイト: シェイクスピア劇のハイライト





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