豚肉の効果はバイアグラ以上？

彼女が何を根拠にこういうのか、あまり確かな証拠は示していない。自分の経験を引き合いに出しているだけだ。

彼女も彼女の夫である前アルゼンチン大統領ネストル・キルヒナーもセックスが大好きだ、ところが最近性的能力の減退に伴って、充実したセックスがなかなか得られないでいた。それは年齢のもたらすところだからいたし方のない側面もあると自分自身に言い聞かせていたが、豚肉を食うことによって、その悩みが劇的に消滅することがわかった。

豚肉は自分たちのセックスライフの充実にとって非常に貴重な効果をもたらしてくれた魔法の食べ物だ、彼女は演説の中でそう言ったのだそうだ。聞いていた人たちは、果たして本気でそんなことを言っているのか、思わず彼女の顔に見入ってしまったという。なにしろ政治の公の場面でセックスが主題になったことなど、誰も聞いたことがなかったし。まして淑女の口からこんなことを聞かされるとは、まさに寝耳に水のことだっただろうから。

それにしても一国の大統領が国民を前にしてこんなことをいうのには、それなりの背景があるのだろう。アルゼンチン人はいままで豚肉をあまり好まなかった。そんなものを食わなくてもアルゼンチンには膨大な数の牛がいる。実際アルゼンチン人は伝統的に牛の肉を食うのが好きで、世界でも最大規模の牛肉消費者なのだ。

だが牛肉だけに頼っていたのでは、いつなんどき深刻な栄養不足に陥らないとも限らない。そこで大統領は将来にわたる食料需給のバランスを考慮して、国民に豚、鶏、魚介類などももっと食ってもらいたいと願っているようなのだ。

豚肉の消費を促すためにセックスへの効果を持ち出したのは、そんな彼女の遠大な計画の一環なのかもしれない。

フェルナンデス大統領は、豚肉はセックスへの効用に加え、長生きにもつながると訴えたそうだ。オランダ人と日本人を引き合いに出して、これらの国民は一生を通じて非常にたくさんの豚肉を食っているおかげで、アルゼンチン人をはじめとした牛肉好きの民族よりはるかに寿命が長いし、また健全なセックスライフを楽しんでいるのだと追加したという。

たしかに日本人は、牛肉より豚肉を多く消費している。それが平均寿命にどれくらい有利に作用しているかは断定できないが、たとえば沖縄の人の長寿と彼らの旺盛な豚肉消費との間には密接な関連があるといわれているように、豚肉は牛肉よりヘルシーな食べ物なのかもしれない。

しかし沖縄の人たちを含め、日本人がアルゼンチン人より好色かといえば、筆者などは到底同意できかねるような気がする。