杜甫の七言律詩「贊公の房に宿す」(壺齋散人注)
杖錫何來此 錫を杖つきて何(いつ)か此に來れる
秋風已颯然 秋風已に颯然たり
雨荒深院菊 雨は荒る深院の菊
霜倒半池蓮 霜は倒る半池の蓮
放逐寧違性 放逐寧(なん)ぞ性に違はんや
虛空不離禪 虛空禪を離れず
相逢成夜宿 相逢ふて夜宿を成せば
隴月向人圓 隴月人に向って圓かなり
杖をついた身で何時ここに来られたのですか、もう秋風が肌寒い時期です、深院の菊は雨に打たれ、半池の蓮は霜のために倒れています
追放されてもあなたには何のことはないのですね、虚空を眺めやりながら禅の境地を去らないでおられる、あなたとお会いしてともに夜を過ごせば、満月が私たちのためにまん丸に輝いています
秦州に腰を落ち着けると早速、杜甫は贊公を訪ねた。贊公は杜甫が長安に軟禁されていたときに、なにかと相談相手となってくれた人である。長安における安碌山の混乱振りを見越して、いまがそのチャンスだと、杜甫を行宮のある霊武に向けて脱出せしめた人物である。
杜甫が秦州に来たとき、贊公もそこにいた。おそらく何かの罪を得てこの地に流されたのだろうと推測されている。ともあれ杜甫は遥かな道を乗り越えてやっとたどり着いたこの地で、昔の恩人に出会うことを得て、しばし心の休まるのを感じたことであろう。この詩からは、そんな杜甫の気持ちが伝わってくる。
贊公は秦州城内東南西枝村の土室に住んでいた。杜甫はその近くに草堂を建てて住もうとしたが、財足らずしてかなわなかった。短い秦州滞在の期間、杜甫は城内に小さな草堂を借りて住んだものと思われる。
関連サイト: 杜甫:漢詩の注釈と解説
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