NHKスペシャル「恐竜絶滅 哺乳類の戦い」を見て

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NHKスペシャル番組「恐竜絶滅 哺乳類の戦い」を興味深く見た。恐竜が絶滅した後、我々の祖先である哺乳類が、いかにして厳しい環境を戦い抜き、今日の繁栄をもたらしたかについて、俯瞰的なイメージをもたらしてくれた。

最初の哺乳類は恐竜とほぼ同じ頃に現れたが、その後地球の王者として君臨したのは恐竜のほうで、哺乳類は恐竜の影におびえながら暮らさねばならなかった。その時期は約2億2000万年前から、恐竜が突然絶滅した約6500万年前までの約1億5500万年にわたる。

その間哺乳類は、ネズミのような形をした小さな生き物であり続けた。それが恐竜の絶滅を契機として、一躍進化を繰り返し、今日の繁栄に結びついた。

これくらいの知識は、多くの人が今までにももっていたところだろう。ところがその先のことについては、あまり多くは知られていなかったのではないか。番組はその知識のギャップを埋めてくれた。

恐竜絶滅の原因は、小隕石の衝突だったことが明らかになっている。この衝突は地球環境を激変させ、恐竜を始め大型の生物はほとんど死に絶えた。我々哺乳類の祖先はこの新しい環境の中で、これまでのように食われることを恐れながらひっそりと暮らすのではなく、比較的伸びやかに暮らすことが出来るようになり、その結果それまで止まっていた進化のプロセスが再開された。こうして人間を始めとして5000種といわれる今日の多様な種の繁栄へとつながった。

だがこのプロセスは一直線に進んだわけではなかった。恐竜は絶滅したとはいえ、哺乳類にはまだ恐ろしい敵が残っていた。大型の鳥とワニである。

鳥は恐竜の直系の子孫だった。またワニは恐竜の仲間が水辺環境に適応した結果生まれたものだった。これら二つは、哺乳類にとっては、恐ろしい捕食者であり続けたのだ。

だがワニも鳥も、進化の過程で次第に驚異的な存在ではなくなっていった。ワニは水の中に閉じ込められた生き方からついに脱出しえなかったし、鳥は空中での生活に適応するうち、飛ぶことに有利なように、小型化、軽量化するようになった。両者とも哺乳類にとって決して恐ろしい生き物ではなくなっていったのである。

これに対して哺乳類は爆発的な進化の過程に入り、実にさまざまな種を生み出すようになった。その秘密は、恐竜時代に生きていた哺乳類の特長にあると、番組は語る。

その最も大きな要因は、哺乳類の祖先が保っていた原始的な性格にある。それはいいかえれば、どんな形態にも変化できる可能性であった。恐竜の子孫である鳥やワニが、機能を特殊化する余り、変化できる可能性は小さくなっていたのに対して、哺乳類は単純な機能しかもたなかった故に、比較的複雑なものへと変化できる可能性に富んでいた。

地上を生きる哺乳類のほか、水中や空中で生きる哺乳類が生み出されてきたのは、彼らの祖先が単純な生き物だったからおきたことだ、そう番組はいうのだ。

哺乳類が優位に立ったもうひとつの大きな要因は、彼らの大きな脳である。これは哺乳類の仲間が胎盤を獲得したことと結びついている、と番組はいう。

哺乳類の仲間で有胎盤類といわれるものは、1億2500万年前に現れたエオマイア(上の写真:AP提供)を共通の祖先とする。このエオマイアから今日の胎盤を持つすべての哺乳類が生じてきたわけであるが、彼らが他の動物より大きな脳を持ちえたのは、母親の胎内で成長するというプロセスの賜物だったのである。

哺乳類のもうひとつの系列である有袋類では、子どもは未熟な形で生まれてくる。たとえばカンガルーの子どもはわずか1gの重さで生まれてきて、母親の袋の中で、母親の乳首に吸い付きながら栄養を補給しなければならない。こどもはまだ未熟なうちから、顔面の筋肉をつかわねばならない。勢い頭部の発育は早い段階でとまり、その結果脳も大きくなることができないと考えられる。

こうした具合で、恐竜絶滅後の哺乳類の進化の過程が、縦糸横糸を入り混じらせながら説明されていた。筆者などは目からうろこが落ちる思いでみていたところだ。


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このページは、が2010年7月20日 19:53に書いたブログ記事です。

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