今回のいわゆる高齢者不明問題、そのきっかけとなった一連の事態について、
NHKが追跡取材をして放送した。題して「消えた高齢者:無縁社会の闇」
取材の対象となったのは三つのケース、杉並区に住所を有する113歳の女性、年金や高齢者祝い金の対象となっていた足立区の111歳の男性、そして匿名を条件に取材に応じた39歳の息子とその父親のケースだ。
杉並区の女性のケースは、今回の騒ぎの発端となったものだ。住民票の記載には、79歳の長女と同居していることになっているが、実際には住んでおらず、その所在について長女も知らないというものだ。番組スタッフが追跡調査するうちに、長女が最後に母親と会ったのは、母親が80歳頃のことで、その後は漠として行方がわからなくなったという。番組はその背後に、普通の家族の解体されていくプロセスを見ていた。
足立区のケースは、父親の年金が生活のよりどころだった長女が、父親の死後も死を隠し続け、年金や給付金を不正に受け取っていたというものだ。三番目のケースも、父親の死によって年金の給付が打ち切られることを恐れた息子が、その死を届け出なかったというものである。
こうしてみると、杉並区のケースからは、家族が解体し、社会からも孤立した人たちの姿が浮かび上がり、他の二件のケースからは、親の年金だけがたよりという、生活苦の実態が浮かび上がってくる。
NHKはいう、無縁社会の中で孤立していくのは、単身生活者に特有の問題で、家族がいる人は、それなりに生きる基盤があるものと思っていたが、実態はそんな生易しいものではなかった、無縁社会の中で孤立する現象は、いまや社会のさまざまな層にまで拡大していると。
こんな事実認識を前提にして、これからは人が社会の中で孤立しないですむようなネットワークを、作っていく必要がある、そういうニュアンスのことをNHKのレポーターは訴えていたようだ。
そのための受け皿として、地域包括支援センターというものを活用したいと、レポーターはいっていたが、実際には人員不足や情報収集の制約から、このセンターが十分に機能を発揮できていない現実がある。
人が困ったときには、何から何まで社会で支えるべきだという思想は、ある面で行き過ぎた考えかもしれない。だが今の日本には、そうでもしなければ、切り捨てられて無縁仏になるしかなくなった人が、沢山出現しているという事実もある、悲しいことではあるが、それはそれで切り捨てることのできない現実だ。
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