パサージュを歩む:パリ紀行その六

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夕刻再び地下鉄に乗りてピラミードに至り、そこよりヴィクトワール広場を目指して歩む。途中なるパサージュを訪ねんと思ひしなり。この界隈はロンドンのソーホー地区に似て、エトランゼなる雰囲気あり。日本料理の店も多く見かけたり。もっともその多くは食欲をそそらぬ体のものなりき。

プティ・シャン通りに面して一のパサージュあり。ギャルリ・ヴィヴィエンヌといひて、パリのパサージュのうちでも最も美しとせらるるところなり。

パサージュとは屋根付きアーケード街の謂にて、十九世紀中パリのいたるところに作られたり。このパサージュなるものに、ヴァルター・ベンヤミンは近代資本主義社会の縮図を見出し、その生理と病理を分析せり。余その論じるところに大いに感心し、今回の旅行中是非一見せばやと思ひゐたりしなり。

中に入りて狭き通路を歩むに、なるほど通常の往来とは異なり、独特の雰囲気を感ず。いってみれば、デパートを横長に広げたるがごときものなり。パサージュの中では、人間の欲望の対象となる者は何でもあると、ベンヤミンは喝破せしが、あるいはその通りやもしれぬと、改めて感ず。

プティ・シャン通りの先に一の円形広場あり。ヴィクトワール広場といふ、一の古びたる教会広場に面して立てり。しかして数本の道この広場より放射状に伸びたり。その一本を進むに、やがて中央郵便局の建物見えたり。

また違ふ道を歩むに、やがてフランス銀行の建物あり、その正面に一のレストランたたずみたり。日本人の経営するレストランにて、ナミキといふなり。ガイドブックに味美なりと紹介されをりしによって、試みに食してみんと思ひ、案内を乞ふ。

結果は期待にたがはざりき。コース料理もワインも申し分なし。しかも主人愛嬌づきて、価もレゾナーブルなり。聞けば主人並木氏は、パリに来てすでに数十年、やうやくなじみの顧客を多く得て、経営軌道に乗りたる由、パリにはこの主人の如く、フランス料理の店を開く日本人多かる由なり。

食後、レストランを辞して道を歩むうち、路地の奥にしゃれた屋根の建物を見る。証券取引所なる由。

パレ。ロワイヤル駅より地下鉄一号線に乗り、シャトレにて十四号線に乗り換え、十時過ぎサン・テミリオンに至る。晩間ウィスキーを嘗めつつこれまでの旅程を語る。


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楽しまれているようでよかったです。

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