午後一時二十分、ヴェルサイユ・シャンティエ駅に到着す。ヴェルサイユ宮殿は、ここより歩いて十五分ほどのところにあり。途中のインフォメーション・センターに立ち寄りて、宮殿の地図を貰ふ。宮殿につく頃、少雨至る。
ヴェルサイユ宮殿は壮大かつ優雅なるバロック建築にて、これもまた広大なる庭園を付設してあり。王朝時代の貴族たちは、宮殿内の広間にて食事とダンスを楽しみ、便意を催せば庭に下りて用を足したるなりと、歴史の本で読みたる瑣事を思ひ出したり。
今日の観光客は、宮殿の一角に設けられたるトイレにて用を足すことを得るなり。しかもパリ市内の観光地とは異なりて無料なり。余もまたその恩恵にあずかりて後、宮殿内をつぶさに見物す。
宮殿の内部は、広大にして入り組みたることミュケナイの迷路の如し。次々と現れる各部屋はシャンデリアと天井画とにて飾られ、さながらこの世の天国かと錯覚せしむ。フランス・ブルボン王朝の歴代王侯貴族は、この疑似天国にて見果ぬ夢を見続けたるなるべし。
ブルボン王朝の歴代君主たちの肖像のほか、ナポレオンの戴冠を描ける絵などあるなかに、日本人アーチスト村上隆の作品併せて展示せられてあり。そのなかの河童に似たるイメージの肖像を、Oval Buddha と名づけたり。
この河童像は、宮殿内部のほか、庭園の真ん中にもすゑられてあり。余は同邦人のこととて敬意を表して見入りしが、フランス人の多くはほとんど関心を払はざるが如くに見えたり。
村上隆なるアーチストについて、余は今まで知るところ殆どあらず、作風からして秋葉原を拠点に展開しをる漫画文化の一種なるべしと忖度したり。
庭園もまた宮殿におとらず豪華絢爛なり。設計者はチュールリー庭園をも手掛けたるル・ノートルにて、池をポイントとなす。この地に水を引くに当たりては、当時の土木技術の粋を尽くすといふなり。
池の周囲にはそれぞれに石の彫刻を配す。これもまたチュイルリ庭園と同じ趣向と察せられたり。
市役所庭園前の公園に黄金の像たちたり。近づき見るに、顔はパラオを思はせ、いかにも漫画チックなり。余思はく、これは村上流漫画アートのカリカチュアならんかと。さらに近づくに、余に向かって瞬きをなせり。横子いふ、これは人間が仮装しをるなれば、写真をとらんと思はば、チップを投げ与ふるべしと。
帰路はRERに乗ることとす。パリまで二十二㌔の道のりを、三十分ほどにて走るなり。この日乗りたる車両は、先日と異なり綺麗に清掃せられてあり。
十分余りにしてパリに接近す、デファンスやらエッフェル塔の影見え来る、列車はそのままセーヌ河畔を走り続け、夕刻ビブリオテック駅に至る、ここにて下車し、十四号線に乗り換へてサンテミリオンに帰り来る。
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