ロシアとNATOとの関係改善

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NATOといえば東西冷戦を象徴するようなものだった。ソ連の軍事的な脅威に対抗するために、アメリカが西欧諸国と一緒になって作り上げた仕組みだ。ところが冷戦が終わった今になっても、NATOは生き続けている。ソ連の脅威はなくなっても、ロシアは依然油断のならない存在だし、近年はイスラムパワーやテロ国家の脅威が生まれ、それに対して従来の同盟国が一致してあたることの必要性もあるというわけだ。

ところがそのNATOが10年ごとに行ってきた戦略見直しのための協議の中で、今年は、NATOがヨーロッパに配備するミサイル防衛システムに、ロシアも加わることで合意がなされた。NATOとロシア(旧ソ連)との歴史的な関係を考えれば、画期的な出来事だ。

このことの背景に、アメリカ、西欧諸国、ロシアのそれぞれに、深い思惑が潜んでいることはいうまでもない。

アメリカは、アフガンやイランの脅威に対して、ロシアも共同して当たらせることで、そうした地域での軍事作戦を優位に進めたいと思っているようだ。またアメリカは近年大きな脅威になってきた中国に対抗するため、東ヨーロッパにおける軍事的緊張を緩和させたい意向もあるようだ。ロシアをNATOの枠組みに引き入れれば、こうした思惑には有利に働く可能性が高い。

ヨーロッパ諸国の方は、安全保障のための財政負担の大きな部分をロシアに肩代わりしてもらいたい意向が強いようだ。ロシアを引き込めば、ミサイルの戦略的配置も合理的に進み、その分安くあがる可能性が高い。

ロシアにとっての最大の魅力は、NATOとの間の長い対立に一定の終止符を打つことができ、したがって今後西欧諸国との間で、互恵的な関係を深める可能性が高まる利点があることだ。

だがロシアの中には、手放しで評価する者ばかりいるわけではないらしい。今回問題になっているミサイルはイランの核弾道を想定したものだが、その性能はまだ取るに足らぬほどお粗末だということが知れ渡っている。そこで「ウサギを撃つために何故クマを撃つ銃が必要なのか」と、この動きを牽制する者もいる。いづれ近い将来、このミサイルがロシアをターゲットにするようになるのを恐れているのだ。

とはいえ、NATOとロシアの間にこのような協力関係が成立しえたのは、両者が対立よりも協働の方向に生きるべき道を見出したからに他ならない。

NATO諸国とロシアとの間には現在、さしせまった対立案件がない。だからこれまでのいきさつを脇に置いて、当面の協働関係を議論することもできるのだろう。

一方ロシアは、日本との関係においては、強気の姿勢を崩していない。先日のメドヴェージェフと菅総理との会談以降、その姿勢を更に強化させ、北方領土をめぐって、日本が尖閣諸島について中国に対して言った言葉を引用しながら、いかなる領土問題も存在しないとまで言い出すようになった。

ロシアはいまのところ日本を、たいして利用価値のない国だくらいに考えているのだろう。経済協力の分野での利用価値も、国の利益にとって決定的ではないし、安全保障面でも、アメリカとの緊密な関係が揺らいでいるようでは、日本の存在はほとんど脅威にならない。こんな具合に考えているフシがある。そんなゆとりが、先日の菅総理との会談における、不遜な態度につながったのだろう。(上の映像は、メドヴェージェフ<中央>とラスムッセンNATO事務総長<左>:NHK)


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