ヨーロッパの課題は労働生産性の向上:パリの暴動

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先般フランスで起きた若者の暴動騒ぎは、久しぶりにヨーロッパの抱える矛盾をあぶりだして見せた。(上の写真:ロイター提供)

何しろフランスは、18世紀以来、民衆が路上でバリケードを築くたびに、一歩一歩民主主義を前進させてきた国柄だ。今回も、フランスの民主主義にとって危機的な問題が生じ、それを学生たちが嗅ぎ取って路上に繰り出したのではないか、そんな憶測を抱かせたものだ。

だが、門外漢が勘ぐるほどに、問題の根は深刻ではなかったようで、パリに荒れ狂ったデモは、比較的短期間で収束した。

騒動の直接のきっかけは、サルコジ内閣が打ち出した年金改革だ。年金の支給開始年齢を、将来にわたって段階的に引き上げようとする案に対して、学生たちが猛反発したのだった。

今のフランスの若者は、これまでの世代に比較して所得水準が低く、生涯賃金が三割ほど少なくなっているところに、老後のあてにしていた年金まで、ケチられようとしている、そんな暗い展望に対して、断固としたノンを突きつけたわけだ。

だが学生がいくら叫んでも、問題はそう簡単には解決しないということが、次第に明らかになった。そこでさすがの闘士たちも、とりあえず矛を収め、今後の改革の動きを見守る姿勢に転じたようなのだ。

今回の事態を冷静に考えれば、ことは年金財政をめぐる問題だった。日本と同じような問題に、フランスの学生は、フランス流に答えたというわけだ。

日本では急速に進む少子高齢化が、年金財政の未来を暗くしている張本人だ。だから支給開始年齢を遅くすることによって、財政破綻のショックをなるべく和らげようと画策している。フランスの場合も似たような事情を抱えていないわけではないが、それに加えてもっと厄介な問題があると見られる。

労働生産性の低下だ。これは一人当たり所得を縮小させる効果をもたらす、それがひいては年金財政にも跳ね返るというシナリオだ。

これはフランスのみならず、ヨーロッパ全体に共通する課題だといえる。アメリカとの比較においても、ヨーロッパの一人当たりGDPは24パーセント下回っている。これは、アメリカ人に比べてヨーロッパ人の労働時間が少ないことを反映している。ヨーロッパがアメリカ並みになるには、一人当たりの労働生産性を今より30パーセントアップさせなくてはならない。

要するに、国民の富の容量が少なくなっている分、分配にまわせる余裕も少なくなったわけだから、年金改革も避けて通れない、こうした単純な道理が明らかになったのだ。それ故、学生たちもこれ以上騒ぐのをやめたというわけだろう。


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