大阪都、中京都構想に、東京都が反発

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現行の地方自治法で都制度が適用されているのは東京都だけだ。この制度ができたのは昭和18年、いろいろな事情が働いて、東京府と東京市が合併して東京都となり、今日まで続いてきた。その成立のいきさつからして、東京地域のみに適用されるべき制度とみなされてきた。

ところが最近、大阪府の橋下知事が、この制度を大阪地域にも適用して、大阪府と大阪市を統合し、大阪都を作りたいと言い出した。するとどういうわけか、名古屋市の川村市長も、名古屋市と愛知県を統合し、中京都を作りたいとフォローした。

橋下、川村の両氏は、それぞれ自分らなりの大都市制度のありかた像に照らして、こう思い至るようになったらしい。そのうえで、この考えを東京都の石原知事にもアピールし、自分たちの思いを是非実現したいと動き出した。

相談された側の石原知事は、予想に反してつれない返事をした。もともと都の制度は首都制度として導入されたものだ、そういう意味合いからすれば、日本の首都たる東京にこそふさわしいのであって、ほかの自治体に適用すべきものではないと、牽制したのだ。

石原さんは、都という言葉の重みにこだわって、こんな言い方をしているらしい。都という日本語が、首都という意味を内包しているとしたら、石原さんの言い分にも道理がある。首都というものは通常、一国につき一つあれば十分だからだ。

それにしても、橋下氏と川村氏はなぜ、都というものにこだわったのだろうか。

都が制度化されたことの歴史的な背景については、さまざまに議論されている。もっとも有力なのは、戦争遂行組織としてとらえる見方だ。

人口が集中し、政治的・経済的・軍事的にも重要な首都東京の行政を、一元的な組織によって運営することで、徴兵から配給制度にわたる国民生活の統制を、合理的に実施できる、こいした思惑に最もかなっていたのが、都制度だったというわけだ。

この見方にはもちろん異論があるが、かりにその立脚点を認めたとしても、本音の上での補足がある。

東京市というのは、日本最大の都市の行政体として、明治以来さまざまないきさつを経ている。国の首都という位置づけのみならず、膨大な数にのぼる市民の生活にとっても重要な役割を果たしていた。その役割の重さを理由に、東京市は大いなる自治権を主張してやまなかったのであるが、そのことが戦時下の日本をリードしていた内務省はじめ、戦争遂行官庁には我慢ならなかった。

つまり東京都というのは、市民生活の立場に立つあまり国のいうことに反抗しがちだった東京市を解体し、これを内務省の下部組織たる東京府に統合することで、戦争遂行に向けての国の意思を貫徹させよう、そうした意味合いを強く持たされていたのだ。

橋下、川村の両氏が、どこまでこういう事情を頭に入れているかどうか、それはわからない。だが二人とも、都となることで、大都市行政が一元化されるメリットが、基礎自治体としての大阪、名古屋両市の犠牲の上だということは分かっているらしい。

石原さんの言い分を引用すれば、大都市を抱えた県の知事さんは、なにかと不本意な思いをすることがある、だからいっそ大都市を制度上とりこんでしまいたいと彼らが思うのは理解できる。しかしそれだからといって、一足飛びに都制度を持ち出すのはいかがなものか。

橋下知事が大阪市に強い不信感を持っていることはよく知られている。川村氏は名古屋市の市長だが、市長でいながら、当の市の関係者を憎んでいるフシがある。そこで名古屋市を愛知県と統合することで、名古屋市に巣食う不逞の輩を放逐したいと思っているフシもある。

こうした事情を踏まえれば、橋下知事も川村市長も、多分に自分自身の鬱憤晴らしの種に都制度を利用しているフシがある。石原さんがそこに胡散臭さを感じたのも、無理はないかもしれない。

これはこれで面白い話だ。だが筆者などは、都制度そのものがすでに歴史の垢にまみれて、制度疲労に陥っていると考えているひとりだ。東京都という制度には必ずしも、首都の制度としても、大都市の制度としても、時代の要請にこたえたものとはいえないところがある。





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このページは、が2010年12月13日 19:05に書いたブログ記事です。

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