就職氷河期

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ひところ流行った就職氷河期という言葉が、昨年あたりから再び深刻さを帯びて語られるようになった。中には悲鳴に近い声もある。

年明けの今の時点で、まだ就職の内定をもらっていない大学生は68パーセントにも達する。この調子だと、15万人前後にのぼる膨大な数の学生たちが、職がないままに卒業することになる。厳しいといわれた昨年の87000人(卒業生の16パーセント)に比較して、実に倍近くである。

彼らのほとんどは、すでに3年生のときから就職活動をしてきた。中には100社近くにアタックして、一つも内定を貰えなかったものもいる。学業を放り出してまで、就職活動に膨大なエネルギーを注いできた結果が、この有様だ。これでは何のために大学に入ったのかわからない。社会にとっても大きな損失だろう。

こうした事情の背景を、評論家たちはさまざまに説明している。それらを大まかにくくると、次の三点に集約されるだろう。

一点目は、経済情勢が雇用に及ぼす影響だ。これはわかりやすい説明だからなかなか反論できない。一方では企業側の求人が増えないのに、大学生の数は増え続けている。これでは需給が一致せず、大量の学生がこぼれ落ちてしまうのは当たり前だ、というわけである。

二つ目は、求人側と求職側のミスマッチ論だ。大企業に限って言えば、求人倍率は低くなってきているが、中小企業を含めた全体の求人倍率は決して低くはない。今年についていっても、従業員1000人未満の中堅・中小企業の大学生に対する求人倍率は2倍を超えている。だから大企業にこだわらなければ、就職の機会はいくらでもある。それでもなお就職できないのは、大学生の意識が世の中の実態とかけ離れているからだ、という議論だ。

三つ目は、企業側のリクルート戦略が変化してきているという指摘だ。かつての日本企業は、終身雇用を前提に、従順そうな学生を大量に採用して、それを企業内で教育・訓練してきた。ところが最近では、採用の条件として特殊な能力を重視する企業が増えてきた。その結果、相対的に能力の低い学生は、いくらアタックしても門算払いされる傾向が強まっている。企業はそんな日本人学生を採用するくらいなら、優秀な外国人を採用する動きを強めている。

こうした条件が重なり、能力の高い一部の学生が、いろいろな企業から内定を貰う一方、能力の低い学生は、大企業には相手にされないという、就職格差の状態が生じている。

そういわれると、そういうものかなあと、半ば諦めの感情を覚えないでもない。だがよくよく考えてみると、果してそうなのか、という疑念もわいてくる。

ここで問題になっている就職できない学生たちとは、正規職員になれなかった学生たちという意味だ。そんな彼らは、派遣やパートタイマーなどの非正規雇用の市場に流れていく。

つまり今日の日本の労働市場は、正規雇用と非正規雇用との二つのカテゴリーからなりたっているわけだ。そういう構造のもとでは、全員が正規雇用を求めることはできない。一定の割合で、非正規雇用に甘んじる人びとの存在が不可欠になるからだ。

何のことはない、いままでなら大学新規卒業者まで及ばなかった非正規雇用の波が、彼らにも及び始めたということだ。就職氷河期問題とは、労働市場のあり方を反映した、すぐれて構造的な問題なのだ。


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このページは、が2011年1月20日 19:04に書いたブログ記事です。

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