杜甫の七言律詩「小寒食舟中作」(壺齋散人注)
佳辰強飯食猶寒 佳辰に強飯すれば食猶ほ寒し
隱机蕭條戴鶡冠 机に隱(よ)り蕭條として鶡冠を戴く
春水船如天上坐 春水 船は天上に坐するが如く
老年花似霧中看 老年 花は霧中に看るに似たり
娟娟戲蝶過閑幔 娟娟たる戲蝶は閑幔を過ぎ
片片輕鷗下急湍 片片たる輕鷗は急湍を下る
雲白山青萬餘裏 雲白く山は青し萬餘の裏
愁看直北是長安 愁ひ看れば直北は是れ長安
朝強飯を食えば食事は冷えている、机にもたれわびしく鶡冠を戴く自分だ、春の水に浮かんだ船はゆらゆらとして天を漂っているかのよう、老年の自分には目がかすんで花も霧の中を漂うようだ
娟娟と戯れる蝶がわが帳の前を過ぎ、片片と飛ぶ鴎が水上を下っていく、雲は白く山は青くどこまでも連なっている、憂えながら真北をみれば、その先には長安がある
大暦5年(770)杜甫最晩年の作。この年の冬、杜甫は洞庭湖に浮かぶ船の中で没する。
中国では冬至後の105日目を寒食、その翌日を小寒食といった。この時期かまどに火を炊くことをはばかり、冷たいものを食ったところから、寒食という詞が生まれた。時期的には春の盛りにあたる。
この詩は末節の言葉に万感の思いが込められている。杜甫のいる洞庭湖の真北、その先には長安が、そして杜甫の故郷洛陽がある。
杜甫は生涯望郷の念をいだきながら、ついに旅先で客死したのである。
関連サイト: 杜甫:漢詩の注釈と解説
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