連合赤軍事件の永田洋子死刑囚死す

永田洋子死刑囚の行為については、さまざまな研究がなされてきており、また自身も「十六の墓標」をはじめ多くの著書を発表しているので、今ではさめた視点からの分析が可能になってきているようだが、あさま山荘事件や山岳アジト事件が世間の耳目を震撼させていた頃は、人間として了解不能なものだと受け取られた。

たしかにそうだろう。革命的総括と称して仲間を次々とリンチで殺していく、なかには女同士の嫉妬から妊娠した仲間の女性を拷問して殺す、死者に対しては人間的な感情のひとかけらも示さず、自分の行為に対して反省するということがない、こんな人物像を突きつけられたら、どんな人でも、この人間を同じ人間として了解することなどできるはずもない。

とにかく自分のことしか頭にないといった振る舞いは、後の浅原彰晃と通じるものがある。そんな風だから、多くの著書の中では自己弁護ばかり目立ち、自らが犯した罪について考えようとするところがない。

「十六の墓標」という題名は自分の手で殺した16人の命にちなんでつけたものだが、その命に対する厳粛な気持ちが伺われない。

元赤軍派で連合赤軍幹部だった坂東国男は著書の中で、こう言っている。
《永田同志の「十六の墓標」の中でも、比較的永田同志の本音の感情が書かれておりいろいろ動揺したことが書かれています。しかし、私や同志達に映っていた永田同志は、そんな人間的感情のひとかけらもない「鬼ババア」でしかありませんでした。私も当時は、恐ろしい人、動揺しない人と考えていたのですから、下部の人が、私たち指導部を「お上＝神」と恐れたのも無理はありません。（坂東国男著「永田洋子さんへの手紙」） 》

坂東国男は永田の同志で、日本赤軍によるクアラルンプール事件の際に超法規的な措置として釈放された人間だ。また永田とともに、あさま山荘事件の直前に山狩り中の警察に逮捕された森恒夫は獄中で自殺した。その森は一連の殺人事件について、自分の責任とともに、永田洋子の責任を厳しく追及していた。

永田は自分が殺した人間はおろか、殺さなかった人間たちにも、人間として認めてもらえなかった。それでも最後まで生きることにこだわった。執拗に再審請求をしたり、脳腫瘍の適切な治療を求めたりといった具合だ。（彼女が死刑の執行を免れたのは病気のためだとする見解もある。）

死の直前には脳萎縮が進み、人間らしい知的能力をほとんど失った状態だったらしい。自分が死んでいくことの意味を考えることなく、死んでいったのであろう。（上の写真は妙義山のアジトで逮捕された時の永田洋子：毎日新聞提供）