ロシアが北方四島を手放さない理由:プラウダ論文から

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英語版プラウダを読んでいたら、北方諸島に対するロシアの死活的な利益を説明した論文が目をひいた。ロシア人にしては率直で明確な論旨が展開されており、それなりに興味深く感じたので、紹介しておきたい。Japan's claims for Russian islands evolve into blind rage By Sergei Balmasov

論者はロシアが北方領土を占領するにいたった歴史的経緯や、その正当性についてはほとんど触れていない。これらの領土をロシアが実効的に支配しており、それを将来にわたって支配し続けることの重要性を強調しているだけだ。日本側がなんといおうと、そんなことはロシアにとってはナンセンスでしかない。日本人の騒ぎは盲人の怒りと同じで、全く実体性がないし、まともに相手にする必要もない、といった論旨だ。

北方四島を含む千島諸島をおいそれと日本に渡せないのは、それが軍事戦略上重要な役割を果たしているからだ。これらの島の海域はロシア海軍が太平洋に展開する上での通り道になっており、それを他国に抑えられることは、行く手を塞がれることを意味する。またこれらの島の近海は豊かな水産資源や海底資源に富んでおり、莫大な経済価値を持っている。そう簡単に譲るわけにはいかないというわけだ。

百歩譲って北方領土を日本に返したと仮定しよう、その次に何が起きるか。手に取るように見えてくるのは、日本が北千島や樺太に対する権利も主張するようになることだ。領土問題での小さな譲歩は、大きな禍根につながる。

それにロシアは日本と同じような問題を、ほかの国との間でも抱えている。エストニア、ラトヴィア、フィンランドの諸国は、日本と同じようにロシアに取られた領土を返せといい続けている。ウクライナも最近まで、同じような主張をしていた。

もしロシアが日本にいい顔をしたら、これらの諸国もロシアへの要求をエスカレートさせるだろう。そうなれば中国だってどう出てくるかわからない。中国はツァーリ・ロシアによって広大な領土を奪われたという妄想を抱いているフシがあるからだ。

こんなわけで、ロシアは日本から奪った領土をそう簡単には手放せない事情があるのだということを、論者のバルマーソフは率直に述べている。あまりに率直過ぎて、筆者などはガス抜きを食らった気分にもなった。

しかしよく考えてみれば、バルマーソフのいうことには、日本側にとって役に立つ情報が含まれている。ロシアが、領土問題に関して、近隣諸国との間に非常に難しい問題を抱えているのであれば、日本もそこのところを突いたらいいのではないか。

敵の敵は味方という言葉があるとおり、領土問題に関してロシアと敵対的な関係にある諸国と日本とが同盟を組み、ロシアの不当性を広く世界に対して訴えるとともに、返還に向けての圧力として利用するのだ。

これくらいの外交ができないようでは、日本の政治家や外交官たちは、いつまでたっても、ロシア人から馬鹿者呼ばわりされることになる。


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