見えない恐怖:放射性物質

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福島原発の事故で放射性物質が漏れ出したとのニュースが伝えられ、大勢の日本人がわが身に振りかかった恐怖として深刻に受け止めた。ところが数字が一人歩きしているようで、どういう条件のもとで、どういう被害が生じるのか、必ずしも正確に伝えられているとはいえない。

一例として菅総理大臣の発言をとりあげてみよう。高濃度の放射性物質が外部に漏れた15日、わざわざ記者会見を開いて国民に呼びかけたが、その中で「濃度がかなり高くなっている。さらに漏洩の危険が高まっている」といって、国民の恐怖心を煽りながら、今のところ健康への影響はないから心配しないでいいと、まったく逆の意味合いのことをいい、念のために外へは出るなと付け加えた。

筆者などは、こんな言葉を聴くと、いったい何が発言の本旨なのかと首を傾げないわけには行かない。

濃度がかなり高くなっており、なおかつもっと高くなる可能性があるのなら、それは真剣に心配しなくてはならない、その上で危険の高さに応じた具体的な防衛策を講じなければならない。これがまともな知性を持った人の考えることだろう。

一方、当面健康への影響を無視してよいほどの段階なら、別に深刻に受け止める必要はない。

だが菅首相がこの会見を行ったときには、放射性物質の漏洩のレベルは400ミリシーベルトに達したと伝えられていたのである。400ミリシーベルトといえば、人間の健康に大きな危害が及ぶというのが専門家の意見だ。

それなのに、菅総理の発言要旨においては、400ミリシーベルトの放射線物質漏れがあったという事態と、健康への影響はないから心配するなという結論とが、論理的につながっていないのである。

こんなメチャクチャなことを言われたら、誰でも首をひねるのは当たり前だろう。まして発言者は一国の総理大臣で、それを聞いているのは事態の推移を見守っている最中の国民たちだ。首相の発言次第では、国民は甚大な災厄にさらされる危険性さえある。外国の人がこんなところを見たら、あきれ返るほかはないのではないか。

こんな具合で、政府の言うことは余り信用できないので、自己防衛のために自分でいろいろ調べる羽目になる。

この事故が起きて以来よく出てくるシーベルトという言葉は、人間を含めた生体の被爆の単位だそうだ。放射線そのものの単位ではない。

人間は普通の状況でも年間2.4ミリシーベルト被爆しており、胸部エックス線放射でも短時間に50マイクロシーベルト被爆する。だが短時間の被爆量が2シーベルトだと5パーセントの人が死に、4シーベルトだと50パーセントの人が死に、7シーベルトだと100パーセントが死ぬ。

死ぬほどではないが、健康に重大な影響をもたらす被爆量は100ミリシーベルト前後だといわれる。

重大な影響の中でもっとも怖いのは癌の危険だ。とりわけヨウ素131という放射性同位体は甲状腺がんを引き起こすことが知られている。これはヨード剤を事前に飲むことで回避できる。甲状腺の周囲を無害なヨード剤で満たすことによって、ヨウ素131が入り込む余地がないようにする方法だ。だがあくまでも事前服用が眼目で、被爆してから飲んでも効果はない。

今回は、このヨード剤を事前に配布するという動きもあるようだ。こんなものをもらったら、わけのよくわかっていない人は、いよいよ事態が深刻化していると受け止めざるを得ないだろう。

とにかく情緒に訴えるようなやり方をつつしみ、正確な情報を、わかりやすく、しかも論理的に、タイミングを失わないように発信してもらいたい。(写真は放射性物質の被爆状況をチェックしているところ:共同通信から)


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このページは、が2011年3月16日 20:33に書いたブログ記事です。

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