有袋類の天国:オーストラリアの不毛の大地に生まれた奇蹟

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NHKスペシャル「ホットスポット:動物たちの最後の楽園」第三回目は、オーストラリアの不毛の大地が舞台だ。アフリカの砂漠と並んで、地球上でもっとも乾燥したこの大地にも動物たちは生きている。その主人公は有袋類、赤カンガルーをはじめ150種類に上る有袋類が、観察されている。

有袋類は有胎盤類(人類もその一員)とともに哺乳類を構成する大グループだ。中国やドイツでもその化石が発見されているように、かつては地球上に広く分布していた。それが大部分滅んでしまったのは、有袋類との生存競争に敗れたからだと考えられる。

ところがオーストラリアだけは例外だった。1億8000万年前に巨大大陸から分離して独立した陸地になって以来、オーストラリアでは独自の生物進化が見られたが、スタートの時点で有胎盤類が存在せず、有袋類の祖先である小さな袋ねずみが、今日の有袋類の共通の祖先となった。

その後オーストラリア大陸は南極から離れて北上し、乾燥地帯に入るとともに、森林地帯は失われ、極度に乾燥した不毛の大地が、大陸の大部分を覆うようになった。今日オーストラリアに生息する動物は、有袋類をはじめ、この極度の感想に適応することで生き延びてきたのである。

オーストラリアを象徴する動物といえば、赤カンガルーだ。今日大陸全体に約1千万頭が生息するといわれる。

ほかの動物同様、赤カンガルーも乾燥に適応できる能力を持っている。オーストラリアでは、動物が一月近く水にありつけないことはざらにおきるが、赤カンガルーはこうした過酷な条件に適応して生きてきた。腎臓が水の代謝をコントロールして、長い間水の補給をしないでも、生き延びられるようにできているのだ。

それでも、弱い子どもが無事成長することは並大抵ではなく、生まれた子どもの半数は大人になれないといわれる。

赤カンガルーは、母親が自力だけで子どもを育てる。オスはメスとの交尾を終えるとさっさといなくなってしまうのだ。カンガルーの子どもは、妊娠一ヶ月くらいで生まれてきて、母親の袋の中で育つ。

通常母親は、二匹の子どもを平行して育てる。大きな子は袋の外に出て、母親に付き添いながら生きる。小さな子は母親の袋の中で生きる。母親は大きな子が倒れたり、危険が迫ったりすると、自分だけ逃げ延びて命をつなぐ。薄情なようだが、これがカンガルーの種の保存に有利に作用しているわけだ。有胎盤類の場合には、妊娠期間が長いために、母子が重大な危機に直面すると、共倒れになることが多いのである。

驚いたことに、赤カンガルーは、受精卵を一定期間、腹の中に冬眠させておくことができる。育児の余裕がない間は冬眠を続けさせ、余裕ができると袋の中に産み落とすのだ。こうすることによって、子どもの数を確実に維持することができる。種の保存にとって非常に有利なシステムといえよう。

今ではカンガルーにとっての天敵もいる。ディンゴだ。これは今から5000年前に人間の手によって持ち込まれたものらしい。

カンガルーのほかに、われわれにもなじみのある有袋類としては、コアラ、ワラビー、フクロモモンガ、ヒメウォンバットなどがある。なかでも面白いのはフクロミツスイという動物で、植物の蜜と花粉だけで生きるという非常に珍しい動物だ。

このフクロミツスイのオスは体の大きさに比較して巨大な睾丸を持っている。その比率を人間に当てはめると、スイカを二個ぶら下げて歩いていることになるという。どうしてかというと、フクロミツスイのメスは、どんなオスとも交尾するので、勢いのよい精子が子孫を残す確立が高い、そこで自分の精子を丈夫にするために、どのオスも巨大な精嚢を持つようになったというわけである。

いずれにしても、この不毛の大地で生き残り、子孫に命をつなぐことは並大抵のことではない。乾燥に加えて、近年は高温化が進行し、生き物にとってはますます生きにくい条件が生まれている。こういうわけで、生きるということは大変なことなのだと、改めて感じさせられた次第だ。(写真はNHKの映像から)


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このページは、が2011年4月18日 20:04に書いたブログ記事です。

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