東電が福島第一原発の事故処理の見通しについて、工程表を発表した。被災者を中心に国民の間に沸騰している不安と疑問に対し、一定の見通しを示したい、そんな政府の思惑を受けた形でのことだったと思われるが、内容はともかく、その実現可能性についてはシビアな見方をする人が多い。
東電は、事故収束の見通しを、二段階のプロセスで説明している。まず最初の段階では、三か月かけて、原子炉と使用済み核燃料プールの状態を何としてでも安定化させる。そのため災害によって破壊されている冷却システムを修復し、本来の機能を果たすようにさせる。
第二のプロセスとして、その後更に3-6か月かけて、原子炉を冷温停止の状態に持っていく。これによって、原子炉の状態は安定化し、放射性物質が大気や海洋に放出される事態を防ぎ、また汚染された土壌等の除染作業を進めることができる。
こうしたプロセスに見通しがつく9か月後の来年早々には、住民の避難を解除できるかどうか判断できるだろう。こういう内容である。
だが専門家は、この説明には、多分に希望的観測が含まれており、具体的な根拠に乏しいとする見方をする人が多い。
まず前段のプロセスについて、当面の目的である冷却システムの回復のためには、システム復旧のためのいくつかの条件がクリアされなければならない。
最も大きな条件は、高濃度の放射線のなかで、安全で効率的な復旧作業ができるという見通しだが、今のところ、これこれこういう具合に、これこれこういう日程で、復旧作業を進めていけますと、具体的にいえるような状況では、全くない。
こうした基本的な条件が達成されなければ、最終状態のめども立つはずがない。
現場の実態は、東電が言うような、収束に向かって着実に進んでいるといった状況とは程遠く、日々新たな問題に見舞われ、そのたびに右往左往しているといった事態に近いのではないか。炉心溶融あるいは大量の放射能漏れといった最悪の事態も、完全に排除されているわけではないというのが、本音のところだろう。
こんな状態のもとで、将来の見通しを工程表の形で示すのに、どんな意味があるというのだろう。
国民としては、根拠に乏しく、したがってあまり蓋然性のない見通しを言われるよりは、これこれこういう理由で、今は見通しが立てられる状態ではありません、そういってもらう方が、はるかに納得できるというものだ。
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