メキシコ湾で深刻な原油流出事故をもたらしたBP社の「ディープウォーター・ホライズン」事故からちょうど一年たったいま、一時は会社の存続まで心配されたBP社が見事によみがえった。
事故前に50-60ドルのレンジで動いていた株価が事故後には27ドルまで暴落したが、現在は50ドルまで復活し、安定的な動きを示している。株主は結局、この事故に関して殆ど責任を取らずにすんだ形だ。一方事故の被災者は、いまだにきちんとした補償を受けられず、いわゆる風評被害に関しては、補償の見込みがないという。
どうしてこうなったのか。その辺の事情をアメリカ在住の作家冷泉彰彦氏が、WEB上でレポートしている。「1周年を迎えたBP油田爆発事故は原発事故の参考になるのか?」
問題の根本は補償スキームのあり方にあると、氏はいう。アメリカ政府は事故の補償をBP単独の責任とし、しかも補償額の上限を設定するようなことまでした。これは私企業が引き起こした事故に公的資金を投じるのはナンセンスだとする共和党の主張に配慮したためだが、その結果アメリカ政府は補償スキームに大きな発言ができない立場に陥った。政府に代って裁判所が仲介する形で、民事手続きにのっとった補償スキームを作り上げた。費用に上限を設定するやり方は、一方で補償のための資産保全という側面もあったが、他方ではBPに責任の限界を設定してやることにつながった。
裁判所がBPに求めた金額は20ビリオン(1兆7千億円)だ。これが多いのか少ないのか、筆者のようなものにはわからない。だがこの金がカバーするのは、直接的な被害だけで、風評被害などは対象にならない。また、民事手続きを厳格に適用することを前提にしていることから、被害の内容を厳格に証明しなければならず、被災者にとっては補償にいたるハードルは高い。
またこれを一私企業の問題に矮小化した結果、環境問題や風評被害に対する配慮はワキへおかれ、環境より雇用のほうが大事だという風潮が強まる中で、事故を徹底的に追求しようとする機運もしぼんでいった。
こうした流れを整理したうえで氏は、損をしたのは地元だけで、BPもオバマも実にうまく立ち回ったと総括している。その上でさらに、この事故が福島原発に何ほどかの教訓になるか、意見を述べているが、要するにこんな馬鹿なことはするな、あるいはさせるな、ということに尽きるようである。
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