福島原発事故の賠償スキーム決まる

| コメント(0) | トラックバック(0)

110518.toden-scheme.jpg

福島原発事故の賠償スキームが決まった。東電は原則として事故によって生じたすべての損害を補償する、それに必要な資金には上限を設けず、また電力値上げなどによる国民負担を避ける、一方東電の経営破綻を避けるために、賠償機構を設置して東電を支援するほか、必要に応じて国による補償の肩代わりにも余地を残すというものだ。

方向性としては概ね妥当なものだと思う。

筆者は先般、この問題に関する政府部内の検討情況を取り上げ、それが深刻な問題をはらんでいることを指摘した。東電による損害賠償は無限ではなく、負担に上限を設けること、負担のための資金は電力会社が協力して捻出し、東電にはそのうち2兆円程度を負担させることが盛り込まれる一方、株主や債権者などの責任は問題にされず、電力料金の値上げも容認されていた。

これは東電の責任を棚上げして、国民に負担を押し付ける一方の、メチャクチャなスキームだ、そこで筆者も一言いっておきたいという気持ちになったのだった。

今回のスキームは、こうした問題を一応クリアしているという点で、前進しているといえる。

賠償は基本的には東電の責任で行う、それが筋だ、東電には、賠償責任を果たさせる過程で、血のにじむような努力をしてもらう、また株主や債権者にも応分の責任を負ってもらう、その当たり前の考え方を、このスキームは内包しているといえる。

ともあれ、このスキームが適正に行われることで、東電は経営破綻に陥ることなく賠償責任を果たせるという見通しが立った。スキームの実施には一定の時間がかかり、今後10年ほど、東電は政府の管理下で賠償責任を果たしていくことになる。

これを、先般のBPによるメキシコ湾原油流出事故の対策スキームと比較すれば、格段に合理的だと評価できる。BP事故問題では、公的資金の投入と政府の介入が世論によって忌避されたため、賠償の取り扱いはBPと被災者との直接的な交渉に委ねられた。その結果被害者は適正な補償を受けられない一方、BPの打撃が小さかったことで、株主はなんらの損害をも蒙らないという、非常に不公平な事態が生じた。それはモラルハザードといってよいような事態だった。今回のスキームは、少なくともそうしたメチャクチャな事態には陥らないだろうという期待を、国民に納得させるものだといえる。

このスキームは、原子力事業者にとっては厳しいものとなっただろう。これによって、原子力事業者も、原子力行政も、これまでのような馴れ合いの政策を推進していくわけにはならなくなったはずだ。馴れ合いによって当面の問題点をそのままにし、安全を考慮しない政策を推進すれば、その付けは何倍にもなってわが身に降りかかってくる、今回のケースはそのことを教えてくれたといえる。

教訓としてはずいぶん高くついたと思うが、これをきっかけに、安全なしでは原発推進はありえない、ということを国民すべてが肝に銘じたいものだ。(写真はロイター)


関連記事:
東電の賠償責任をどう考えるか:国民負担で投資家の利益を守る
アメリカ市民を犠牲にして株主の利益を守った:BPのしたたかさ





≪ 浜岡原発の停止はバッド・タイミングか | 東日本大震災 | 福島原発暴発阻止行動プロジェクト(Skilled Veterans Corps):退役技術者たちの愛国心 ≫

トラックバック(0)

トラックバックURL: http://blog.hix05.com/cgi/mt/mt-tb.cgi/3157

コメントする



アーカイブ

Powered by Movable Type 4.24-ja

本日
昨日

この記事について

このページは、が2011年5月13日 20:22に書いたブログ記事です。

ひとつ前のブログ記事は「夜に吹く風(Vent nocturne):ロベール・デスノス」です。

次のブログ記事は「転機に立つ中国の一人っ子政策」です。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。