菅総理大臣が福島県庁に佐藤知事を訪ね、原発周辺の被災地への帰宅の見通しと汚染土壌の中間貯蔵の問題について見解を述べた。原発周辺の汚染は想像以上にひどく、今後長期間にわたって住めない状況が続くこと、福島県内の汚染土壌や瓦礫は、当面は県内で中間貯蔵してほしいという内容だ。これに対して佐藤知事は、県内での中間貯蔵は突然の話で非常に困惑していると答えた。
佐藤知事が困惑した理由は二つあるようだ。一つは、この面会の前日に辞任表明を行い、すでに政治生命を終えてレームダックになっている人物が、末期に及んでなぜこんなことを云いだしたのかという、菅総理自身に対する不満だ。
もう一つは、これまで全国各地で被災地の瓦礫や土壌を受け入れるという方向で話が進んできたのに、一転して福島のものは福島県内で処理しろというのはどういうことか、そのことへの、不満というか困惑だ。
最初の点には相応の理由があるだろう。すでに政治的な影響力を完全に失っているといってよい人物がいうことに、どれほどの意味があるというのだ。いままでも原発問題では、福島県民に相当の不安を与えてきたというのに、去り際になってなおその不安をあおる。許せない言動だという、菅総理に対する佐藤知事の憤りは十分に理解できる。
二点目については、不幸な行き違いが背景にある。いままでは、被災地の瓦礫を全国で受け入れようという流れが出来上がりつつあった。さすがに放射能汚染物質を受け入れようとまでいうところは現れなかったが、津波が残した瓦礫はみんなで受け入れようという流れはできていた。それが滞ってしまったのは、瓦礫の放射能汚染が広く報道されたからだ。どこの自治体も、放射能汚染物質の受け入れはごめんだという空気があっという間に広がった。
こんな空気の中で、県外処理にこだわっていては、何事も前進しない。県内処理の方向に舵を切り替える必要が強まってきた。こうした背景が働いたのはたしかなようだ。
菅総理は当面、県内で中間貯蔵をお願いしたい、その先にある最終処分については、県内処理にこだわらず、オールジャパンの姿勢で行っていきたい、と答えたようだ。
しかし中間貯蔵と云い、最終処分と云い、県外処理にこだわっていては、進まないというのが正直な認識だろう。これまで廃棄物の処理は自区内処理が原則になってきた。自分で出した廃棄物は自分が責任を以て処分する。他の地域には迷惑をかけない。これが自区内処理の原則だ。この原則は、放射性廃棄物処理の分野にも貫徹されていくだろうことが予想される。
だから今のうちから、福島の土壌汚染を他の県に引き取ってもらうことを夢見るのは、悪い夢に終わる可能性が高い。汚染土壌を含めた原子力廃棄物と云えども、自区内処理を原則にして将来のスケジュールを組み立てていく必要があるだろう。
きれいごとばかりでは、世の中は動いていかない。(写真は菅総理と佐藤福島県知事:TBSの映像から)
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